女王様のご生還 VOL.18 中村うさぎ

両親の上京やら引越しやらイベントやら、先週から今週にかけて公私ともにバタバタしっぱなしだったので、すっかり疲れ果てて頭が朦朧としている。

脳が再生するまで丸二日、ベッドで寝たきり状態になってしまった。

病気のせいなのか、年のせいなのか、よくわからない。

でも、普通の59歳って、まだ毎日会社に通勤して働いてるんだよなぁ。

それ考えると、みんな、すごいわ。



老人は足が弱るとめっきり老け込むというが、本当にそのとおりだ。

駅まで300mくらいの距離を歩いただけで息切れし、ひとりで立っていられなくなる。

そんな毎日を過ごしてると、自然と歩くのを忌避するようになるから、ますます身体が弱ってヨボヨボになるのである。



でもね、今でも夢の中では普通に歩いたり走ったりしてるんだよ。

急な坂道を駆け下りたり、階段を登ったりできるの。

私の脳は、まだ自分が歩けなくなったことを受け容れてない。

まぁ、それを言うなら、夢の中で私が「私」と思っている女は、まだ30代くらいの自意識だ。

私のセルフイメージは、たぶん30代くらいで止まっているのだろう。

まだ元気でヒール履いて歩いてて、お金もあって、恋もセックスもしてた頃。

目が醒めれば足の悪い59歳に戻るけど、寝ている間は活力に満ちた30代だ。



前回、認知症の母が時間を行ったり来たりするタイムトラベラーだと書いたが、私も認知症になったら30代の自分に戻ったつもりになるのだろうか。

歩けないくせに高いヒールを履きたがったり、若い男に色目遣ったり、お金があるつもりで散財したりするのかな。

やばい! クレジットカード取り上げなきゃ! バカスカ遣うよ、きっと!

だって私の30代といったら、買い物依存症真っ盛りだもん!



もしかすると人間は、自分の半生で一番良かった時代で、セルフイメージの年齢を止めてしまうのかもしれない。

30代の頃に戻りたいなどと特に思ったことはないが、どうもそこに固着しているらしいということは、きっと無意識にそう感じているのだろう。



今振り返って見れば、まぁ、確かにあの頃は人生を全力疾走していたと思う。

離婚して、ラノベデビューして、買い物依存症になって、苦しいんだか楽しいんだかわからない、だけど息もつかずに無我夢中で走ってるような毎日だった。

いつまでもラノベを書き続けられるとは思ってなかったし、エッセイで成功するとも思えなかった。

明日の見えない不安にいつも背後から追いかけられている気がして、そいつに追いつかれないよう、とにかく必死だったのだ。

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