女王様のご生還 VOL.279 中村うさぎ
とある番組にレギュラー出演していた頃、打ち合わせ中に共演者のお笑い芸人から「あんたには子供がいないから、子を持つ親の気持ちがわかんないんだよ!」と言われたことがある。その時の話題は北朝鮮の拉致問題についてであった。彼が「北朝鮮なんかミサイル撃ち込んで皆殺しにすればいい」と言ったので、「それはまた随分と乱暴な意見じゃないか。北朝鮮に住む人がすべて拉致に関わっているわけじゃなし」と反論したところ...
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とある番組にレギュラー出演していた頃、打ち合わせ中に共演者のお笑い芸人から「あんたには子供がいないから、子を持つ親の気持ちがわかんないんだよ!」と言われたことがある。その時の話題は北朝鮮の拉致問題についてであった。彼が「北朝鮮なんかミサイル撃ち込んで皆殺しにすればいい」と言ったので、「それはまた随分と乱暴な意見じゃないか。北朝鮮に住む人がすべて拉致に関わっているわけじゃなし」と反論したところ...
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前回、「ハイブリストフィリア(犯罪性愛者)」は女性の中にある「ワル好き」という性的嗜好の延長線上にあるのではないか、という仮説を述べた。確かに、少女漫画において「不良に恋するヒロイン」という設定は珍しくない。いや、珍しくないどころか、むしろ王道である。その一方、少年漫画で「悪女に恋する主人公」というのは、さほど多くはない。峰不二子に恋するルパン三世くらいのもんか。まぁ、その場合、主人公はたい...
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前回は、処女に取り憑かれたシリアルキラーのミシェル・フルニレについて書いた。だが、彼の場合、その犯罪は必ずしも単独行動ではない。彼には妻のモニク・オリヴィエという共犯者がいたのだ。彼が目をつけた少女を拉致する際、標的を騙すためにモニク・オリヴィエの存在は不可欠であった。見知らぬ男の車には警戒して乗らない少女たちも、そこに男の妻が同乗していたなら話は別である。女性がいるから安心だろうと警戒心を...
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三島由紀夫は自伝的小説「仮面の告白」の中で、初めての射精のオカズが「聖セバスチャンの殉教」を描いた宗教画であったと書いている。上半身裸で木に縛りつけられ矢に貫かれた美青年の苦悶の姿が、幼い彼の同性愛的嗜好とマゾヒズム的嗜好を強烈に刺激したらしい。このエピソードで思い起こすのは、私が小学生の頃に衝撃を受けた「聖テレジアの法悦」という彫像だ。天使の槍で貫かれ身をよじらせて恍惚の表情を浮かべる聖女...
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一昨年の夏に知人が死んでいた事を今さらながら知った。石田千尋という名前の陰陽師だ。「ちひろちゃん」と呼んでいた。ちひろちゃんは非常にインパクトのある人物だったので、交流があったのはもう30年くらい前だけれども、今でもその姿をありありと鮮明に思い出せる。真夏でもスリーピースのスーツに身を包み、ステッキを持ち歩いていた。初めて会った時「マジシャンですか?」と訊いてしまったほど、そのいでたちは異彩...
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相手を論破しようとしたり説得しようとしたりする時に、いわゆる「偉人の名言」みたいなのを持ち出す人っているよね。たとえば、こんな感じだ。「私の人生なんてどうせ負け戦ですからねぇ、ははは」「うさぎさん、サルトルはこう言ってますよ。『負け戦とは、自分が負けてしまったと思う戦いの事である』と」「はぁ……」そうですか。サルトルはそう言いましたか……んで?だから何っ!?サルトルがそう言ったからって、私も...
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私は家族愛の薄い人間である。母が死んでも悲しまなかったし、残された父が本人の意志とはいえ、たったひとりで老いていく孤独を知りながら何も手を打とうとしない。そりゃまぁ少しは心配するが、だからといって大阪の実家を頻繁に訪ねるでもなく、旅行に誘われても頑なに断り続けている。父と旅行なんかしたら肉体的にも精神的にも疲弊して、HPもMPもゼロになるからである。父を慰める気持ちより自分の身体の方が大事だ...
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自分の事を名前呼びする女子がいる。身の回りには見当たらないが、ネットゲームでは「名前呼びする女子」が圧倒的に多くて、これはいったい何故なんだろうといつも不思議に感じていた。ちなみに名前呼び男子はネトゲ上にもほとんどいない。どうして、女子だけ?そして何故、ネットだけ?ネトゲで自分を名前呼びする女子も、たぶんリアルではそれをやってないと思う。というのもネトゲの名前呼び女子は若い子とは限らず、「今...
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私は努力が嫌いだ。小学生の頃から「やればできる!」みたいな激励の言葉が苦手だった。いくら小学生でも、「やってもできない事はある」くらいの現実は理解している。たとえば私は幼い頃から虚弱体質で体力も運動神経も並み以下であるから、かけっこで一等賞を取るなんて芸当はどんなに努力してもできっこない。そういうのはスポーツに向いてる人が努力すればいいのであって、最初から劣っている私が努力する必要なんてどこ...
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「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日俵万智氏の有名な短歌である。「サラダ記念日」が大ヒットした1987年当時、29歳だった私はこの歌があまり好きではなかった。短歌としてどうこうではなく、何でもかんでもやたら「二人の記念日」にしたがる人たちの習性が好きじゃなかったからだ。今でも映画などの中で「今日は何の日か覚えてる?二人の初デート記念日よ!」みたいな台詞が出て来ると「ふふん...
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