女王様のご生還 VOL.198 中村うさぎ

今でこそ同性愛は社会的に承認され(されてない国もあるが)、ゲイの人々は自分を恥じたり苦しんだり必死で隠したりする必要なく堂々と「ゲイですが何か?」と言えるようになってきた。

だが、ほんの数十年前まで同性愛は恥じるべき性癖であり、同性間の性行為はもちろん男女のようにイチャついたりキスしたりするだけで犯罪と見做されていた歴史を、我々は決して忘れてはならない。

何故なら、それを忘れると我々は「他者の性癖」への寛容さを失ってしまうからだ。

ゲイが認められてマジョリティの中に溶け込むようになった理由と経緯を忘れてしまったら、たとえ社会がゲイを受け容れてもゲイ以外の性癖には相変わらず不寛容であるという事実を見逃してしまう。



ゲイが己の性癖を恥じたり罪悪感に苦しんだりしなくていい理由のひとつに、「性癖は選べない」という厳然たる事実がある。

ほとんどのゲイは自らの意思で同性愛を選んだのではなく、物心ついた時には既にゲイだったのだ。

家庭環境も関係ないし、幼い頃に同性愛関係の書物に影響されてゲイになったわけでもない。

ただ気がついたら同性を好きになっていただけだ。

それが理解されなかった時代には、ゲイは自己責任や親の責任と見做されるか、あるいは精神の病として治療や矯正を促されていた。

もちろん、それらの治療や矯正にはほとんど効果がなく、相変わらず同性に惹かれ続ける彼ら彼女らは自らを恥じ必死で世間の白い目から隠れて罪悪感に苦しみ続ける以外に道はなかったのである。

同性愛は「悪」であり「罪」だと教え込まれた異性愛者たちは己の中のゲイヘイト……すなわちゲイに対する侮蔑や生理的嫌悪感をごくごく正当なものと捉え、ゲイに暴力を振るうことすら当然と考える者たちもいた。



こうした風潮に抵抗する先人たちのゲイ解放運動によって現代社会のゲイたちは長年の迫害と屈辱から解放されたわけだが、未だ社会に容認されずその性癖だけで犯罪者扱いされているのが小児性愛者である。

世間ではロリコンやペド(ペドフィリアの略)などと呼ばれており、「ロリコンとペドは対象年齢が違う」とか「ロリコンは性癖でペドは精神疾患」とかいろいろ言われているようだが、まぁ要するに13歳未満の少年少女を性的対象とする人々だ。

日本では13歳未満との性行為は違法なので、このような人々は己の性欲をリアルで満たそうとすると速攻で犯罪者となってしまう。

なのでほとんどのロリコンやペドは己の欲望を必死で我慢し、エロ漫画やエロアニメなどでオナニーする以外に道はないのである。

ゲイと同様にペドも本人が自らの意思で選んだ性癖ではないので、つくづく同情を禁じ得ない。

たまたまこのような性癖を持ってしまった人々は、自分ではどうする事もできないまま、悶々と生きるしかないのだ。



ペドがゲイよりもさらに悲劇的なのは、おそらく彼ら彼女らの性癖が犯罪と切り離されて考えられる時代など来ないだろうと思われるからだ。

ゲイの場合は相手が成人であれば当人同士の合意のもとにセックスしても人畜無害とされるが、ペドの場合はたとえ合意の上であっても13歳未満とのセックスは「レイプ」と見做される。

何故なら13歳未満の子供には「自己決定権」「自己決定能力」が認められてないからである。

13歳という年齢の線引きが妥当かどうかは議論の分かれるところではあるが、子供に対して圧倒的な支配力と影響力を持つ大人が性行為を迫った場合、それを毅然として拒絶できる子供は多くはあるまい。

たいていは何が何やらわからぬままに言いなりになるか、たとえ好意的に受け入れたとしても「本人の意思」と断言できるかは微妙なところだ。

したがってペドの場合、ゲイと違って「合意の上での性行為」は認められにくい。



だが、何度も繰り返すが、彼ら彼女らも自らの選択でペドになったわけではないのである。

その性癖をリアルで実現すれば犯罪であるが、ファンタジーの中だけに収めてさえいれば、性癖自体に罪はない。

しかし、世間にはペドという性癖そのものを危険視し、その持ち主を犯罪予備軍扱いする人々が少なからず存在するのだ。

ペドを対象としたエロ漫画や大人のおもちゃを見つけ出して槍玉にあげ、これを撲滅する事に意欲を燃やす人々がいる。

こうした人々は、ペドたちにエロ本やエログッズを与えてその欲望を肯定したら最後、彼らがたちまち現実とファンタジーの境界を見失って近所の幼女をレイプする、と決めつけているようだ。

いや、そんなわけないでしょう。

ヤクザ映画や犯罪ドラマを観たら、みんな人殺しするようになるのかね?



以前、とある大人のおもちゃ屋メーカーさんに「ペド用オナニーグッズ」を見せてもらったことがある。

シリコンでできた幼女のお尻の形をしたオナホールで、サイズ的にはだいたい10歳くらいの大きさだったと思う。

それを机か台の上に置いて「うつぶせのお尻」にペニスを挿入する、というグッズだ。

メーカーの人の説明ではペドの人に絶大な好評を得て、中には「興奮のあまり使用して数日で壊してしまったので、もう一個購入したい」という客もいたらしい。

よっぽど溜まってたんだろうな、と、その客に同情してしまった。

だってリアルでは絶対に満たされない性的ファンタジーを、たとえ疑似とはいえ、精巧な代替グッズが初めて満たしてくれたわけだもの。

そりゃもう大喜びで壊れるほどやりまくったんでしょう。

でも、いくら激しくやって壊しても、相手は人間ではなくシリコンの尻だ。

誰にも迷惑かけてないし、誰も傷つけてない。

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