「自己免疫疾患」という病気に関しては以前から「不思議な現象だなぁ」と感じていた。
自分の細胞が自分自身を攻撃するなんて誤作動、わけがわからない。
が、そこまで深い関心があったわけではないので、「何かの突然変異なのかな」くらいに考えていた。
だが自分が「スティッフパーソン症候群」という自己免疫疾患に罹患しているかもしれないと知って、自己免疫疾患というメカニズムに興味が出て来た。
自己免疫疾患は女性に多い病気である。
何故、男性は自己免疫疾患に罹りにくく、女性は罹りやすいのか?
その理由は、女性の染色体がXXであるからだという。
ご存知のように、男性の染色体は母親から貰ったX染色体と父親から貰ったY染色体とが結合したXY染色体である。
対して女性は、母親から貰ったX染色体と父親から貰ったX染色体によるXX染色体を持つ。
んで、Y染色体は性別にのみ関わる染色体なので、我々の体細胞はX染色体から成っている。
となると、男性の場合は免疫細胞もその他の体細胞もすべて母親由来のX染色体でできていることになるが、女性の場合は母親由来のX染色体と父親由来のX染色体が混在するため、男性にくらべて組み合わせが複雑になる。
たとえば男性は、免疫細胞もその他の体細胞もみんな母親由来のX染色体だ。
要するに、同じ血を引く同族なのだ。
これに対して女性の場合、免疫細胞とその他の体細胞の組み合わせは4種類もある。
すなわち、
1 母親由来のX染色体から成る免疫細胞×母親由来のX染色体から成るその他の体細胞。
2 父親由来のX染色体から成る免疫細胞×父親由来のX染色体から成るその他の体細胞。
3 母親由来のX染色体から成る免疫細胞×父親由来のX染色体から成るその他の体細胞。
4 父親由来のX染色体から成る免疫細胞×母親由来のX染色体から成るその他の体細胞。
1と2はどちらも同じ血を引く同族なのでトラブルは起きない。
だが、3と4の組み合わせの際、免疫細胞とその他の体細胞の出自が違うため、免疫細胞が「これは私ではない」と判断して敵とみなして攻撃するわけである。
つまり、「自己免疫疾患」とは、体内で繰り広げられる夫婦喧嘩なのだ(笑)。
母親の卵子と父親の精子の結合によって笑まれた子供は「愛の結晶」なんて呼ばれるが、その子が女の子であった場合、その体内で母親の染色体と父親の染色体が時に激しく敵対する。
父親も母親も、所詮、自分しか愛せないというわけだね。
この「遺伝子の自己愛」は非常にシンボリックなものだと私は感じる。
人間は複雑な生き物だ。
他者との繋がりや愛を強く希求する一方で、他者を拒絶し排斥したがる傾向から逃れられない。
この「他者の排斥」は強い自己愛から生まれるものであるが、一方の「他者と繋がりたい」願望もまた利他精神や他者への寛容とは程遠く、要するに「他者から認められたい」という自己愛の発現に過ぎなかったりする。
つまり人間は、あくまで自己肯定のために他者を必要とし、そのくせ自分肯定のために他者を排斥したがるというジレンマを常に抱えているわけだ。
要するに「エヴァンゲリオン」のテーマとなっていた「ハリネズミのジレンマ」というやつである。