BDアニメ New Frontier 第20回『とらドラ!』

※2012年1月発売号の原稿です。

【惹句】振幅の激しい心理を入念に描いた青春群像劇の傑作が、最新技術の高画質でより繊細に再現!

 人と人との間で揺れ動き、簡単なことで傷ついては壊れる青春特有の心理。そんなデリケートな感情を表現するのは抽象化されたアニメでは難しいが、それに成功して多くの感動を呼んだ傑作学園アニメが、2008年秋の話題作『とらドラ!』である。

 原作は竹宮ゆゆこのライトノベル。手乗りタイガーと異名をとる小さくて凶暴な少女・大河(つまり虎)。目つきが鋭すぎて不良と間違われやすい高校生・竜児(つまりドラゴン)。題名になっているこの2人を中心に、個性的だが身近にいそうな高校生たちが繰り広げる青春群像劇だ。

 あるときは愉快に、あるときは切なく、あるときは痛々しく。外見と内面のギャップを抱えるキャラクターたちが、お互いがお互いを想うがゆえに、葛藤を抱えながらも本音をぶつけあう絶妙な感情変化が、見事に映像化されている。

 特に激しい言動をみせる大河が、自分自身にさえ本音を隠してしまうがゆえに周囲を振り回しながら、竜児への想いを育てていくプロセスは、モノローグなどの言葉になっていないがゆえに、深い共感を呼ぶ。ドタバタのコメディタッチで笑わせながらも、それが悲喜劇に転じる様は、青春ならではの痛々しく切ない気持ちを浮きぼりにして、目が離せなくなってしまう。

 この深く共感のできる青春群像劇は大評判となり、「キャラクターデザイン:田中将賀、シリーズ構成:岡田麿里、監督:長井龍雪」と、本作のトリオは2011年春ノイタミナ枠の『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(通称:あの花)で再結集し、大きな話題と感動を呼んだばかりである。

 BD化に関しては、ソニーPCLの最新アップコンバート技術「Real Scaling for HD」の適用でジャギーやオーバーシュートなどを抑え、最高峰の画質をめざしている。作品内容にふさわしいピュアで繊細で、それでいてアニメらしく鮮烈な画づくりとなっている。これぞ青春というイメージの鮮烈な色味と、細やかな仕草や大胆なアクションといった起伏の激しいアニメーションも、より奥深く味わえるようになった。

 加えて各ディスクの収録話数も登場人物の関係変化に合わせてそろえてあり、それぞれ長編的に観られるのも嬉しいことだ。特典映像類の網羅はもちろんのこと、新作エピソード「弁当の極意」まで収録されたのはまさにサプライズ。送り手側も受け手といっしょになって、作品とキャラを愛していることの分かる配慮がギッシリだ。これぞ待望のBD-BOXと呼べる必携の逸品である。

【2011年12月25日脱稿】初出:「月刊HiVi(ハイヴィ)」(ステレオサウンド刊)