女王様のご生還 VOL.272 中村うさぎ

自分の事を名前呼びする女子がいる。

身の回りには見当たらないが、ネットゲームでは「名前呼びする女子」が圧倒的に多くて、これはいったい何故なんだろうといつも不思議に感じていた。

ちなみに名前呼び男子はネトゲ上にもほとんどいない。

どうして、女子だけ?

そして何故、ネットだけ?



ネトゲで自分を名前呼びする女子も、たぶんリアルではそれをやってないと思う。

というのもネトゲの名前呼び女子は若い子とは限らず、「今日はミカ、夜勤だからぁ」なんて言ってるところを見るとちゃんと社会人で、しかも会話の内容から推測するにおそらく30代だったりしそうだからだ。

彼女たちが職場でも「ミカはね~」なんて言ってるとは思えない。

専業主婦ぽい人もちらほらいるが、彼女たちもまたお母さん仲間の集まりで「ミカはこう思うの」なんて言ってないだろう。

職場だろうとお母さん仲間だろうと、いい年して名前呼びは周囲がドン引きしそうだ。

つまり、彼女たちは日常的に「私」という主語を使っているに違いない。

なのにネットでは「私」という主語を捨てる。

ネットでは誰もがアバターなので、主語を変えることでネット上の自分とリアルの自分を区別しているのだろうか?

だとしても、何故、「名前呼び」?



自分を名前呼びするのは、幼い子供の特徴である。

まだ「私」とか「僕」とか「俺」という主語を獲得していない年齢の子は、周囲が呼ぶ名前で自分を呼ぶ。

私も幼稚園くらいまで自分を「典子」とか「典子ちゃん」とか呼んでいた気がする。

で、ある時期にそれがすごく子供っぽい事だと気づいて恥ずかしくなり、意識的に主語を「私」に切り替えた。

そう、「名前呼び」は子供っぽいのだ。

それはたぶん、多くの人の共通認識だと思う。

なのに大人になってあえて「名前呼び」に戻す理由は何だ?

子供だと思われたいのか?

でも、子供は夜勤なんかしないし、子育てもしない。

子供を装うのであれば、そんなリアルの話はしない方がよかろう。

どうやら彼女たちは、自分が大人の女性である事は開示したいらしい。

が、その一方で、きわめて意識的かつ戦略的に、幼稚な名前呼びを選択するのだ。

えっと、つまりそこに浮かび上がるのは「幼女の心を持った大人の女性」という自己イメージですかね?

もちろん幼女といってもヨダレを垂らして「ばぶぅ」とか言ってるイメージではなく、無邪気で純真でちょっと甘えん坊なかわいい女の子だ(たぶん)。

要するに、英語にまで取り込まれた日本文化「kawaii」の体現者ってことでよろしいか?

うへぇ……(辟易)。



念のために言っておくが、私は「kawaii」文化を嫌悪するものではない。

自分も日常的に「かわいい」という形容詞を使うし、かわいいグッズは大好きだ。

とはいえ、何を「かわいい」と感じるかは千差万別で、私の場合はあまり幼児的な意匠に「かわいい」と目を輝かせることは少ない。

たとえばキティちゃんとかミッキーマウスとか、若い頃にかわいいと思っていたものに今では心惹かれないのだ。

まぁ、これは年齢と共に好みが推移した結果なので、仕方なかろう。

もちろん大人になってもキティちゃんやミッキーマウスを愛する人々がいても、べつにそれはそれで気にならない。

みんな、自分の好きなものを「かわいい」と言ってればいいのだ。

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