女王様のご生還 VOL.252 中村うさぎ

以前、とある女性のお笑い芸人さんと対談した時に、彼女がこう言った。

「私はお客さんに笑われてるんじゃない。お客さんを笑わせてるんです」



なるほど、そういう気持ちで舞台をやっているのか。

べつに他人がどんな姿勢で仕事をしていようが勝手だが、彼女が妙にドヤ顔だったので変な気分だった。

「笑われてるんじゃなくて、こっちが笑わせてるんだ」という意識は、そんなに大事なことなのか?

人から笑われるのって屈辱なのか?

笑いを仕事にしているのに、いちいちそうやって客にマウント取ってるのか?

何だか大変ですね、お笑い芸人さんって。

いや、彼女だけかもしれないけど。



ちなみに当時の私は絶賛買い物依存中で、その数々の愚行をエッセイに書いて世間の笑い者になっていたが、「笑われてるんじゃなくて、笑わせてるんだ」などと思った事は一度もなかった。

だって、現に笑われてるもん。

「笑われよう」と思って書いてるんだもん。



私に「笑わせてる」という意識がないのは、書いてる内容がすべて本当の事だからだ。

笑わせようと意図してわざと買い物してるわけじゃないし、買い物依存症の演技をしてるわけでもない。

本当に買い物が止まらないし、本当にバカなので、人から笑われて当然だと思っている。

自分でも滑稽だと思っているから、笑われる事に何の屈託もない。

むしろ「笑われてナンボ」だと思っているくらいだ。

そんな私であるから、彼女の「笑われてるんじゃなくて笑わせてるんだ」という主張には少々面食らったのである。



おそらく彼女は、「笑われてるんじゃなくて笑わせてるんだ」という心意気を「芸人の誇り」と捉えているんだろう。

そういう意味では、「笑われてナンボ」なんて思ってる私は「誇り」のない人間なのかもしれない。

そう、今の時代なら「自己評価が低い」とか「自己肯定感がない」とか「自尊心に欠ける」などと呼ばれるタイプだ。

だが、「バカにすんなよ。私はおまえらに笑われてるんじゃなくて、こっちがおまえらを笑わせてやってるんだからな」と言わんばかりのその主張は、私の耳にはひどくコンプレックスに満ちた言葉に聞こえるし、むしろ「誇り」や「自尊心」に欠けているような気がする。

何故なら、「誇り」や「自尊心」はマウントなんか取らないからだ。

優劣にこだわるのは「自尊心」ではなく「ナルシシズム」の仕業だ、と、私は思う。

この続きを見るには

(1,282文字)

¥250(税込)

購入して続きを読む