「うさぎ図書館」で「男たちの母性恐怖」について書いたので、ここでは少しその補足をしたいと思います。
生命を産み育てる「母性」は、古代から人類の崇拝の対象でした。
乳房をたくさん持った女神像や腹の大きい女神像など、多産と繁栄を象徴する「地母神」の像は世界各地にあります。
だが、その畏敬と崇拝の裏には、「母性」の暗黒面に対する恐怖も存在しました。
子どもを食い殺す恐ろしい女神もまた、各地の神話に登場します。
精神分析医のユングは、これを「グレートマザー」と名付けました。
大いなる生命の源であると同時に、すべてを飲み尽くす恐ろしい母親像です。
「母の力」は圧倒的です。
フロイトは「エディプス・コンプレックス」を唱え、男子が父親から「去勢される恐怖」を抱いていると考えましたが、それを言うなら男子を去勢するのは母親の方かもしれません。
多くの男は「母親」に弱く、圧倒的に支配されているように思えるからです。
父権の強い家父長制の中ですら、母親の隠然たる支配力は否めません。
表面的には一家の大黒柱たる強大な父親が家族を支配しているように見え、母親はおとなしく夫に従属しているように思える家庭でも、いつの間にか母親は子どもたちを味方につけており、その気になればいつでも牙を剥ける。
成長して父親を凌駕するほどの力をつけた息子たちは、完全に母親に洗脳され支配されており、力の弱い母親に代わって父親を倒す気満々だからです。
「エディプス・コンプレックス」の語源となったオイディプス王の「父親殺し」は、母に恋した男子の悲劇ではなく、母にコントロールされた男子の代理復讐劇なのかもしれません。
母は「母性」の名のもとに子供を骨抜きにして操ろうとする……このような「母性の暗黒面」が、豊穣の地母神を創り上げる一方で貪欲な破滅の女神像をも生み出してきました。
それがユングの「グレートマザー」です。
多くの男たちの心の中には、圧倒的な力で君臨する「グレートマザー」が棲んでいる。
「彼女」は誰よりも大きな愛で包み込み癒してくれる存在ですが、それと同時に、彼らを完全に依存させ力を奪い思考を操る独裁者でもあるのです。