女王様のご生還 VOL.26 中村うさぎ

先日、ある精神科医が「サイコパス」について「スネーク・イン・ザ・スーツ」という表現をしていた。

スーツを着た蛇。

人当たりがよく教養もあって世間では社交的な紳士と見られているが、じつはそのスーツの下は人間ではない。

冷血で獰猛な毒蛇なのだ。



その言葉を聞いた途端、二人の連続殺人鬼の顔が浮かんだ。

ピエロの格好をして慈善活動にいそしみ、子どもたちに風船を配ったりする心優しい地元の名士として知られていたジョン・ゲイシー。

彼は自宅の床下に約30人の少年の死体を隠していた。

もうひとりは雄弁で頭の回転が速く、カウンセリングやボランティア活動に熱心で、「いつか州知事か連邦上院議員になるだろう」などと評されていたテッド・バンディ。

彼はその仮面の陰で30人以上の女性をレイプし殺害していた。



まさに「スネーク・イン・ザ・スーツ」。

何十人もの人間を平然と殺せる怪物でありながら、そんなものはおくびにも出さないほど完璧に整えられた外面。

誰しも二面性は持つものだが、ここまで極端な人間は少ない。

彼らは病的な虚言者(←私の大好物ですね)とも言われているが、魅力的な人物なので周囲は簡単に騙される。

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