BDアニメ New Frontier 第3回『機動警察パトレイバー アーリーデイズ』

※2010年8月発売号の原稿です。

【惹句】低予算・低価格で大ヒットした歴史的な名作 当時の作り手の意図も、Blu-ray化で一段と鮮明に。

 時に1988年4月――OVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)の救世主となった作品が、『機動警察パトレイバー』だ。その最初のシリーズが、現在では「アーリーデイズ」と呼ばれている

 TVで放送されるアニメには玩具を売るためにロボットを出すなど制約が多い。映像を直接売るパッケージなら作家性で勝負できる……などと1983年末から始まった初期OVAは、むしろ表現が自己満足的だったなど、一般性から外れた作品が目立った。それゆえに離れかけたユーザーを、4800円というブロックバスター価格プラス「もし警察にロボットが配備されたら」という分かりやすい設定でつなぎ止めたのが、本作であった。

 原作者が「ヘッドギア」というクリエイター・ユニットという点も斬新だ。企画の初期案をまとめたゆうきまさみ(漫画家)と出渕裕(メカデザイナー)に高田明美(キャラクターデザイナー)と伊藤和典(脚本家)が合流。初期6話分は押井守監督が限られた予算でまとめる職人芸的なワザを見せ、それぞれの持ち味が絶妙にブレンドされた。

 このOVAのヒットにより、あの伝説的な『劇場版』が決まり、吉永尚之監督(後にTV版を担当)による第7話が公開直前にリリースされる。当時いかに爆発的に事態を変えた作品だったか分かるだろう。本作のヒットがなければ現在のように深夜アニメ(OVAの末裔)が量産されることもなかったはずだ。

 同時に本作はローコストで主役メカが滅多に動かず、番外編のように急所を外した回が多いことでも知られている。では、それがBlu-ray化で貧相に見えるかと言えば話は逆で、かなり驚いた。引き締まったレイアウト、黒ベタなどハイコントラストを意識した照明設計、心情に訴えかけるシーン・カット単位の色変え、レンズを通したことがはっきり分かる拡散フィルタや透過光など撮影の冴えなど、低予算ゆえの研ぎすまし方が実によく見える。表現的にも「深夜アニメの先祖」だと明瞭に分かる作品なのだ。

 特に伊藤和典脚本の特撮ドラマ『MM9-MONSTER MAGNITUDE』が放送されている現在(2010年8月)、職業という環境の中で「いかにもいそうな」キャラを立てる作劇、ムダをいっさい省いた語り口にシビれるものを感じた。

 フィルム原版も35ミリで、セル絵の具の色味が美しい。「低予算でもこれだけは見せたい」という意図が実に鮮明に浮き上がる。Blu-rayはそんな歴史的意義ごと先鋭化して再生し、前には気づかなかったことを教えてくれるメディアかもしれない。そこまで思わせる好印象のパッケージであった。

【2010年7月26日脱稿】初出:「月刊HiVi(ハイヴィ)」(ステレオサウンド刊)

氷川竜介

1958年兵庫県生まれ。アニメ・特撮研究家、明治大学大学院客員教授。東京工業大学卒。文化庁メディア芸術祭審査委員、毎日映画コンクール審査委員などを歴任。日本SF作家クラブ会員。海外での展示会・映画祭での講演経験多数。文化庁向けに「日本特撮に関する調査報告書」「日本アニメーションガイド ロボットアニメ編」を執筆。主な編著、参加書籍:「20年目のザンボット3」(太田出版)、「世紀末アニメ熱論」(キネマ旬報社)、「アキラ・アーカイヴ」(講談社)、『細田守の世界――希望と奇跡を生むアニメーション』(祥伝社、2015年)、「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム from 1989」(国書刊行会)など。