必携アニメ大絵巻 第12回『R.O.D』(最終回)

※2010年5月発売号の原稿です。

【惹句】紙が鋼鉄を切り裂き、巨獣に変化する。トリッキーなアクションと人情味あふれる異色作がBOXに!

 もろく柔らかいはずの紙なのに、その鋭いエッジで指を切ることがある。『R.O.D』は、そんな二面性を武器に転じた超能力者「紙使い」のユニークな活躍を描くアニメだ。倉田英之が原作小説を自らシリーズ構成し。キャラクターデザインは石浜真史、監督は舛成孝二と、今年(2010年)6月26日公開の劇場アニメ映画『宇宙ショーへようこそ!』のルーツに相当する作品である。

 アニメ版はOVAシリーズ『R.O.D -READ OR DIE-』全3話に加え、続編にあたるTVシリーズ『R.O.D -THE TV-』全26話で構成され、今回の「R.O.D -THE COMPLETE- Blu-ray BOX」にすべて収録されている。『READ OR DIE』とは内藤陳の書評「読まずに死ねるか!」のタイトルにオマージュを捧げたものだ。これが象徴するとおり、登場人物の多くは活字中毒や小説家、編集者など、書物を偏愛する人びとなのだ。紙をめくることで別世界へと旅立つ「読書への愛情」が、「紙使い」のイメージにも直結している。

 OVAは大英図書館特殊工作部の「紙使い」読子・リードマンが、クローン人間として復活した平賀源内やベートーヴェンたち「世界偉人軍団」と戦って平和を守る壮大なストーリーだ。TV版はそれから5年後――読子に深い関わりをもつ小説家・菫川ねねねと香港で出逢った探偵三姉妹を新たな主人公として、さらなる冒険譚が紡がれる。

 この三姉妹も「紙使い」だったと分かることで、闇の世界で着々と進行する陰謀との接触が始まり、平凡な日常はスケールの大きな事件へと流転していく。そしてTV後半では読子も再登場し、スタッフのキャラへの深い愛情もうかがい知れるトキメキの展開となっている。

 みどころは、手近な紙を切れ味鋭い武器や防壁、あるいは巨大な獣へと自在に変えて戦う「紙使い」のシャープなアクション描写だ。神田神保町など綿密な取材に裏打ちされたリアルな風景に、昆虫博士ファーブルの奇襲が侵入してくるなど、地に足のついた部分とトリッキーなアイデアとのバランスが実に面白い。ビジュアル面の充実に加え、全体に温かく血が通い、そしてどこか切ない人物描写が味わい深い。気がつくと病みつきになっている、愛すべき魅力の詰まったアニメなのだ。

 SDからのアップコンによるHDリマスターだが、画質面でも鮮やかに映像の魅力を語っている。この舛成孝二監督ならではの山盛りのアイデアとサービス精神、キャラクターの魅惑の言動、そしてアクションと人情の交錯から生まれる激しい感情の起伏は、新作映画『宇宙ショーへようこそ!』にも受け継がれている。高解像度で映える『R.O.D』の幸福な味わいを、どうか堪能してほしい。

※編注:この題名によるコラム連載は1年で完結しました。掲載号としては続けて新連載が始まっています。

【2010年4月26日脱稿】初出:「月刊HiVi(ハイヴィ)」(ステレオサウンド刊)