女王様のご生還 VOL.59 中村うさぎ

来週、還暦を迎える。だからといって何の感慨もない。

どうやら、ある時期から、私にとって年齢は「どうでもいい問題」になったらしい。



年齢を気にしていたのは、いつ頃までだろう?

20代から30代になった時も、30代から40代になった時も、少しくらいは「うわぁ、もうそんな年かぁ」という気持ちはあったような気がするが、40代から50代になった時は以前ほどの危機感や焦燥感はなかったように思う。

もう諦めたのかというと、そういうわけでもない。

50代に入っても私は相変わらず恋活をしてたし、セックスもしてた。

たから、そういうものを一切諦めたわけではなかったが、そこで年齢を考えて躊躇したりクヨクヨしたりする気持ちは、むしろ30代40代の頃の方が強かった。



その原因は、明らかに「美容整形」であろう。

40代半ばから始めた美容整形で、私は「見た目の若さなんかどうにでもなる」ことを知ってしまった。

そして、「見た目の若さ」が思ったほど恋愛やセックスに貢献しないことも。



もちろん、老けてるより若く見られた方が、モテ感はあるし本人的な満足度も高い。

が、だからといって好きになった相手に好かれるわけでもないし、いいセックス相手に恵まれるわけでもない。

容姿は「入口」に過ぎず、そりゃまぁ玄関にも入らずに帰られるよりはせめてドアの内側には入ってきて欲しいものだが、たいていの男は玄関で奥の間をちらりと見た途端に尻込みしてしまうのだった。

これはもう完全に、容姿云々ではなく、私自身の内面の問題である。



小綺麗な玄関に期待を膨らませて足を踏み入れた男は、靴を脱ぐ前にそっと奥の間を窺う。奥の間を見られたくなければドアなりカーテンなどで遮断してればいいのだが、あいにく私はそういう工夫が苦手なので、奥の間が丸見えだ。

そして、その奥の間には綺麗な花が飾ってあるわけでも美味しそうな料理が並んでいるわけでも、ましてやセクシーなベッドが用意されているわけでもなく、とっちらかったカオス状態だ。

しかも、その奥の間の入り口に、意地の悪そうなババアが毒のある薄笑いを浮かべて、寄らば斬るぞとばかりに抜身の刀で待ち構えている。

こんな奥の間を見せられたら、男が尻に帆をかけて逃げ出すのは当たり前だ。

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