中国の海洋戦略は、太平洋、南シナ海からインド洋にまで拡大してきている。中国の「一帯一路」構想からすると、西アフリカからインド洋を通って東南アジアへ抜ける"海のシルクロード"も重要な戦略で、それにはインド洋の覇権掌握が欠かせないのだ。
すでにパキスタンではインド洋に面したグワダルで中国国有企業が港の運営権を取得し、港湾建設に取り組んでいるし、バングラデシュでも港湾作りを行なっている。またスリランカのハンバントタでは中国資本の会社が港湾の土地を99年間借り上げたといわれる。さらにアラビア半島とアフリカに挟まれた紅海の出口に位置するジブチはソマリア沖で海賊対策などを行なう中国海軍の拠点になりつつある。またインド洋に面したミャンマーのチャウピューでは中国と結ぶ原油・天然ガスパイプラインの起点として中国資本が港湾整備を行なうことになっている。
これらは全て中国が構想する21世紀の海上シルクロード(一路)の線上にあり、その延長線は地中海を通じてギリシャ、イギリスなどにつながるしパキスタンからは中国・パキスタン経済回廊を通って陸のシルクロード(一帯)にも通じるのだ。
またパキスタンとバングラデシュに建設する港湾はインド洋に突き出しているインドを囲めるルートになっており、その構図は"真珠の首飾り"とも呼ばれている。
こうしたインド洋における覇権確立に警戒心を抱き神経をとがらせているのはアメリカ、日本だけでなくインド洋に接しているオーストラリアや昔から南下政策に熱心なロシア、イランなど中東各国だ。当初、一帯一路構想を警戒していた日本は、最近個別プロジェクト毎に判断し、協力するかどうかを決めると軟化している。一方、オーストラリアは親米路線を基軸としながら日・米・豪で海洋秩序の維持を模索している。
今後注目されるのは、インド洋の中心に位置する大国・インドの動きだろう。インドは60年代まで非同盟外交路線をとっていたがチベット問題や国境紛争で中国との関係が悪化したり、ロシアのアフガニスタン侵攻に反発していた。インドは中国と並ぶ人口大国で20、30年後には間違いなく世界をリードする大国になっていよう。そんな中でインドとアメリカが防衛協力の強化に乗り出した。
いま世界には中心となる国が見えなくなりつつある。米・中を中心にロシア、EU、インドなどが覇を争いつつある中で、覇気を失いつつある日本はどんな生き方をするのか。インドは昔から親日国だ。複雑な階級社会があるものの中間層が増大し、注目すべき時代にきている。
【財界 2018年10月9日号 第480回】
画像:Wikimedia commons"Chinese String of Pearls map" by EdgarFabiano
◆お知らせ
・20日に開催される文教学院大学様の「新・文明の旅」プログラム記念セッションにて「中央アジアと日本 ~文化、歴史、経済のつながり」と題した講演に登壇いたします。
本プログラムは、嶌の講演および文教学院大学様の学生とユーラシア大陸の国々の大学の学生達との交流を深めるプログラム「新・文明の旅」に関する報告会が実施されます。
日時:2018 年 10 月 20 日(土)13:00~15:00(開場:12:30)
会場:文京学院大学本郷キャンパス B 館8階 812 WingHall (東京メトロ南北線「東大前」駅2番出口すぐ)
一般の方も聴講可能です。申込み締切が明日となっております。
http://ur2.link/Mr63
・7日(日) TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』21:30
ゲスト: 荒俣宏氏(作家)二夜目 音源掲載 来週水曜までの期間限定公開
大学卒業後に魚が好きで入った漁業会社で任された驚きの仕事内容や、退社後「帝都物語」をヒットさせ百科事典を作るなど、意外な経歴についてもお伺いしました。次回も引き続き荒俣氏をゲストにお迎えし、博物学者や妖怪研究家としても知られる荒俣様が、妖怪やお化けに魅せられて、知のモンスターといわれる人生観についてお伺いいたします。
http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/20181009
・「平山郁夫と旅するシルクロード」展が10日から帝京大学総合博物館にて開催
今回、平山郁夫シルクロード美術館(山梨県北杜市)が所蔵するスケッチや現地で収集された切子や置物などが展示されており、シルクロードの雰囲気に触れることが出来ます。さらに、帝京大学シルクロード学術調査団がキルギス共和国にて発掘調査を進めている、東西の結節点として栄えた交易都市のひとつである「アク・ベシム遺跡」についても合わせて紹介されています。
会期:2018年10月13日(土)~12月15日(土)
料金:無料
場所:帝京大学総合博物館(東京都八王子市大塚359 八王子キャンパス ソラティオスクエア B1)
詳細は以下リンクを参照下さい。
http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/20181003