中国強国路線の波紋

Wikimedia commons(中華人民共和国国防部本部 /Netson)

 中国が着々と強国路線を歩み始めている。今年の全国人民代表大会(全人代)で国防予算を前年実績比8.1%増の18兆4000億円とし、4年ぶりに伸び率が前年を上回った。狙いは単に軍事費を増やし強国化をアピールすることより、軍の近代化などにより質の強化を推進していることだ。 

 このため、国防費を増やすことで「軍の情報化、機械化を進化させ戦略能力を向上させる」と習近平主席は明言し、空母建造を大連や上海で進めるほか原子力空母の開発計画も明らかにしている。またレーダーに探知されにくいステルス性能をもつ新型戦闘機を配備する計画も発表した。 

 その一方で2015年に打ち出した兵力30万人の削減も達成し、スリム化も図っている。かつて中国は陸軍の国といわれたが、いまや海洋進出を目指し、空軍やサイバー部隊の強化に力点を置いているのだ。特に南シナ海を重視し、人工島を造成して対艦、地対空ミサイルを配備。爆撃機の着陸訓練などを行なったりしている。 

 こうした中国の動きに対し、アメリカは、6月にシンガポールで開いたアジア安全保障会議でマティス米国防長官が「中国の南シナ海における強引な軍事拠点化はアメリカの戦略と明確に衝突する」と名指しで批判。中国の南シナ海における兵器の配備は、脅威や圧力のための軍事利用に直結するものだと非難している。

さらに今後は中国に対抗するため日本、オーストラリア、インドなどと連携を強化したインド太平洋戦略を推進すると明言、「いかなる国もインド・太平洋を支配すべきでない」と対抗措置をとることを表明した。 

 こうした米、中の対立に頭を痛めているのはASEAN各国だ。ミャンマー、ラオス、カンボジアなどは中国の援助に期待し比較的”中国寄り”の姿勢を示しているが、ベトナム、ブルネイなどは警戒感を強め、中国寄りと見られたフィリピンは中国の軍事拠点化加速に反発。政権交代したマレーシアのマハティール首相も中国離れの動きを見せている。 

 中国の動きは軍事分野だけに留まっていない。貿易面ではアメリカが対中貿易赤字3750億ドルのうち2000億ドル分を減らすよう求めており、特にハイテク分野の交渉が難航している。特にロボットなど先端技術の国産化を目指す「中国製造2025」のハイテク産業に巨額の補助金を投じていると見るアメリカは、500億ドル分の制裁関税を課すと表明した。

中国の強国路線が各分野で摩擦を引き起こしているのだ。中国は強国の具体的中味として民族の再興と豊かな国民経済をあげている。これからの10年はアメリカと中国の覇権争いが激化しよう。その時日本はどう立ち回る?

【財界 2018年夏季特大号 第474回】

◆お知らせ

・15日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』21:30から

ゲスト:大林宣彦様(映画監督)

 幼少期、実家の蔵の中で見つけた映写機を蒸気機関車に見立てて遊んだことがきっかけで3歳で映画を作った頃のエピソードなど

 https://www.tbsradio.jp/271794

 8日 お化け屋敷プロデューサーの五味弘文様をお迎えした二夜目 番組サイトにて来週水曜正午までの期間限定で音源を配信

 日本で唯一「お化け屋敷プロデューサー」を名乗るようになったきっかけや、最新の音響や映像技術も取り入れながら 人間が演じる「生身のお化け」にもこだわり、背筋も凍る怪奇の館を創り続ける人生観など

 http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/20180709

・21日 ウズベキスタン協会主催「嶌信彦の出前講座」を開催

 嶌が時流の政治・経済・社会問題等の話題を分析・解説するものです。

 日 時:2018年07月21日(土)14:00~16:00、開場13:40

 テーマ:1)米中対立

     2)北朝鮮と金正恩

     3)急増する外国人労働者

     4)安倍政権は続くのか?

     5)不祥事続く官僚・大企業

     6)アジアは内需と思え

 場 所: 日本フードサービス協会会議室

      東京都港区浜松町1-29-6  浜松町セントラルビル10F

 詳細は以下を参照下さい。

 http://nobuhiko-shima.com/2018uzbekucourse.html