※2012年9月発売号の原稿です。当時公開の劇場映画レビューつきです。
【惹句】7つの特殊機能をそなえるマッハ号! レースを通じたマシンの魅力が鮮やかに迫る!
●60年代のレベルを超えた 美麗な映像を高画質で!
超絶に美しいボディラインのレーシングカー“マッハ号”とレーサー三船剛の活躍を描く1967年のTVアニメがBD化された。アメリカに輸出されて大人気となり、2008年には『マトリックス』のウォシャウスキー兄弟監督が実写映画『スピード・レーサー』としてリメイク。多くの映像クリエイターに影響をあたえた世界的な名作である。
今年50周年を迎えるタツノコプロは先駆的な試みで知られている。本作でもヒーローもの全盛の時代に、あえて無機質なマシンを事実上の主役とした。マッハ号をデザインしたのは後に大河原邦男の上司となる美術監督の故・中村光毅。メカデザイン史上、象徴的な作品であり、ロボットアニメのルーツのひとつと言える。
女性のファッション、大胆にデザインされた風景など、ハイセンスな絵柄も国境と時代を超えて愛される秘密である。世界のレースを転戦、その中で悪の妨害を打ち破るマッハ号。そのハンドルに用意されたAからGまでのボタンは、「Aはオートジャッキ」「Bはベルトタイヤ」とと7つの特殊機能を起動し、好敵手たちとのデッドヒートを盛り上げる。ドラマもシンプルでありながらも力強く、特に覆面レーサーが兄という正体を隠して弟の三船剛に接する回は深く心に残る。
HDマスターは60年代アニメならではの「ハンドトレス」で制作されたシャープで味のあるラインを精密に再現している。マッハ号の下部など入念にエアブラシをかけた部分の階調も豊かに見える。過去のソフトでは古めかしかった色合いを、カラーテレビ黎明期を意識した当時の鮮烈なトーンに補正してあり、あらためてオリジナルの意欲と熱気が、ぐっと手前に迫ってきた。
●ユーモラスな相棒ヒーローもの、劇場へ
今月の必見は9月22日から全国ロードショー予定の『劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning-』。中年になった「おじさんヒーロー」がルーキーと組んで戦うユーモラスな相棒もので、TV版は女性層中心に大ヒットした。劇場版第1弾はTV版冒頭をベースに、かつて描かれなかったビハインドストーリーを新作で織り込んだもの。初見の観客、熱烈なファンともに楽しめる内容となっている。個性的な等身大ヒーローたちが、力を合わせて悪に立ち向かう笑いと熱気に充ちた肉弾アクションを、ぜひ劇場で楽しんでほしい。
【2012年8月30日脱稿】初出:「月刊HiVi(ハイヴィ)」(ステレオサウンド刊)