女王様のご生還 VOL.249 中村うさぎ

「うさぎ図書館」で薬物依存について書いたので、こちらではネット依存の話をしよう。

同じU-Nextで「デジタル・アディクション-スマホを手放せない人々-」というドキュメンタリーを観たのだが、この作品がびっくりするほど薄っぺらくて笑ってしまった。

登場人物があまりにもステレオタイプでリアリティがないので、ヤラセではないかと疑ったほどだ。



ドキュメンタリーには、16歳のゲーム依存症の少年と40代のSNS依存の主婦が登場する。

まず冒頭は部屋に引きこもって戦闘ゲームに熱中している少年の姿。

「一日16時間もゲームをしてる。徹夜でやってるから夕方まで起きて来ないの」と母親が嘆くのだが、どうやら学校には行ってるみたいなので思ったよりまともだ。

夕方まで起きて来ないと言いながら、翌日には朝食を食べて車で登校する姿が映っているのは、いったいどういう事なんだろう?

ちゃんと朝起きてんじゃん。

で、次のシーンは、ゲームをやめさせようとする父親に少年が暴言吐いて暴れる様子だ。

これがまた、マスコミや世間のイメージする「暴力的なゲーム依存者」そのもの過ぎて、どこかわざとらしい。

しかも、暴力的とはいっても父親を殴るわけでもなく、抑え込まれて単にもがいてるだけだ。

あんなレスリングみたいに抑えつけられたら、誰だって暴れるんじゃないかという気がする。

「私にも暴力をふるうの」と母親は涙目で訴えるが、カメラに映っているのは、母親の手から携帯を叩き落とす姿だけ。

そもそも母親が携帯片手に部屋に入って来て自分を撮ってたら、誰だって怒ってはたき落とすんじゃないかと思う。

思春期なんだぞ? もうちょっとデリカシー持ってやれよ。

そんな調子で、態度は確かに悪いものの、暴力息子を抱えた家庭の悲惨さはあまり伝わって来ないのだ。

むしろ、この程度で怯える家族の方が大袈裟に見える。



一方、SNS依存の主婦。

冒頭から、車を運転しながらパシャパシャ自撮りする彼女の姿にびっくりだ。

待て待て、運転中に自撮りする人なんているかー!?

「彼女は片時も携帯を手放さない」と家族は言うけど、いくらなんでもこれはなかろう。

ほんとかよ、と半笑いで観ていたら、食事中もずっと携帯を見ている彼女に母親が怒るシーン。

いやでも、こういう人はいっぱいいるよね?

今の若い子なんて、みんなそうじゃん。

お茶飲んでお喋りしてても携帯は手放さないし、ちらちら見てるよ。

なのに彼女の母親も息子も「また携帯見てる!」と大騒ぎだ。

彼女がずっと出会い系をやってるのも、出会い系で知り合った男と付き合ってるのも、家族は大問題だと思っているらしい。

相手の男が暴力をふるっている様子もないのに、「彼と別れなければあなたは破滅する。お願いだから別れて」などと強要する。

これがティーンエイジャーなら叱るのもわかるが、もう40代の大人なんだからほっとけばいいのに。

ゲーム少年の時と同様、家族がやたら騒ぎ立てるのが大袈裟だ。

やっぱり、どこか嘘くさい。



そして極めつけは、両者の結末である。

少年も主婦もそれぞれ45日間の「デジタル・デトックス」を受ける事になる。

1ヶ月半、携帯にもパソコンにも触れず大自然の中ではしゃいだりスケートボードで遊んだりという、もういかにもな「健康的」生活が映し出された後に、家に戻って来た二人は憑き物が落ちたように晴れやかに微笑みながらインタビューに答える。

「自分の目と耳と鼻で世界を感じて、ネットでは得られなかった素晴らしい充実感を味わったの。もう携帯はガラケーにする。スマホなんかいらないわ」

「45日のデトックスで、新しい世界を知った。今は学校の友達と遊びに出かけたりするし、好きな女の子もできたよ。学校生活をエンジョイしてる。もちろん家族とも仲良くなれて幸せだよ」



嘘つけーーーーっ!!!!

45日で依存症が治るなら、誰も苦労しねーよ!

それに、どの口で「現実世界の素晴らしさ」とか説いてんだ!

そもそもおまえらは、その現実世界から逃げ出してネットに依存してたんだろ!

ネットでは、現実の自分に制約される事なく、なりたい自分になれるからな。

デブでコミュ障で鈍くさい自分でも、ゲームではタフでかっこいいヒーローになれる。

ゲームキャラの姿を借りるから、本当の容姿なんか関係ない。

パラメーターも好きなように設定して、現実より遥かに強い無敵のマッチョマンになれる。

SNSだって同じだ。

所詮は架空のファンタジーワールド。

セクシーな女でも可愛い女でも、何でも演じ放題だ。

男たちが「いいね」を押してコメントしてくれば、たちまち君は女王様さ。

ネットは、現実世界では決して得られない充実感と自己肯定感を、君たちに与えてくれた。

だからこそ、君たちはあんなに夢中になって耽溺したんじゃないか。

何を今さら「現実世界の素晴らしさを発見した」だよ。

現実世界がそんなに君たちに優しかったら、君たちはネット依存になんかならなかったはずだろ!

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