BDアニメ New Frontier 第4回『青の6号』

※2010年9月発売号の原稿です。

【惹句】デジタルアニメの可能性を変革! 記念碑的作品の全容がHDリマスターで眼前に迫る。

 世紀末も迫る1998年当時、間もなくすべてのアニメ作品がデジタル制作へ移行することが見えていた。しかしコンピュータ化するなら、2D(手描き中心)と3D(立体モデル中心)では質感が大きく違う。どうするかという表現の課題に、両者のハイブリッド化で二歩も三歩も先をいく挑戦を試みた世界初のフルデジタルOVAが、GONZOの『青の6号』(前田真宏監督)だ。本作のノウハウは今でも基本となっているのだから、まさにパイオニアである。

 原作は小澤さとるによる同名の少年漫画(1967年)で、潜水艦ものという新ジャンルで大ヒットした『サブマリン707』をすべての点でスケールアップした作品。それを原作者自らが1997年にリメイクした漫画をアニメとしてアレンジし、村田蓮爾デザインの丸みを帯びた人物、草なぎ琢仁の獣人は2Dで微妙なラインを再現、河森正治と山下いくと、前田真宏自身による潜水艦などのメカは3DCGで描かれ、両者の質感を光や空気感を重視したデジタル撮影(コンポジット)でなじませている。

 天才科学者ゾーンダイクとキメラ生物部隊の海洋テロで水没した世界を舞台に、超国家組織《青》の潜水艦「青の6号」が人類存亡の危機を救う戦いを展開する。海中で魚雷を発射し、爆発が泡の球体となる独特の潜水艦バトルは言うに及ばず、水上や深海、はては氷塊の真下など、あらゆる水は3DCGの活用で前代未聞のビジュアル表現で描かれる。物語的なみどころはクライマックスで判明する事件の真相だ。戦争の本質に迫るこれが9.11事件直前に作られていたことには驚きを禁じ得ない。

 時代的にはSD制作であったが、今回のBlu-ray化にあたっては原版を改めてHDの24pにリマスター。滅亡迫る地上の重苦しさ、差し込む陽光と水しぶき、あるいは南氷洋の透明感あふれるブルーなど、質感や色味の表現力が濃密で、美的な印象が増した。本作は音響についてもパイオニアで、5.1ch化最初期のアニメ作品にあたる。近作『借りぐらしのアリエッティ』でも迫真の効果音をつけた笠松広司のサウンドデザインがTHE THRILLの音楽ともどもロスレスで楽しめる点もポイントが高い。

 時代を乗り越え、後世を大きく変えた作品が内包する情報量を余すところなく再現する。それもまたBlu-ray化の大きなメリットだとよく分かる商品ではないだろうか。

※草なぎ琢仁の「なぎ」は「彅」です(第三水準)。

【2010年8月29日脱稿】初出:「月刊HiVi(ハイヴィ)」(ステレオサウンド刊)

氷川竜介

1958年兵庫県生まれ。アニメ・特撮研究家、明治大学大学院客員教授。東京工業大学卒。文化庁メディア芸術祭審査委員、毎日映画コンクール審査委員などを歴任。日本SF作家クラブ会員。海外での展示会・映画祭での講演経験多数。文化庁向けに「日本特撮に関する調査報告書」「日本アニメーションガイド ロボットアニメ編」を執筆。主な編著、参加書籍:「20年目のザンボット3」(太田出版)、「世紀末アニメ熱論」(キネマ旬報社)、「アキラ・アーカイヴ」(講談社)、『細田守の世界――希望と奇跡を生むアニメーション』(祥伝社、2015年)、「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム from 1989」(国書刊行会)など。