BDアニメ New Frontier 第21回『宝島』

※2012年2月発売号の原稿です。

【惹句】冒険の海で出逢う「男の中の男」が人生を変える! 出崎統監督の代表作が色鮮やかにBD化!

 すぐれたアニメ作品は、人の生きざまさえ変えてしまう。故・出崎統監督のテレビアニメ『宝島』は、まさにそんな作品の代表格である。原作はスチーブンソンが19世紀に記した古典小説。ジム少年は偶然手に入れた宝島の地図を手に、帆船ヒスパニオラ号に乗り込んで冒険の海へ出る。すでにエンターテインメントの原型のひとつになっている名作で、映画化やアニメ化、アレンジ作品も非常に数多い。

 出崎統バージョンの最大の特徴は、ジムと仲良くなりながらも、やがて海賊の恐るべき正体を現すジョン・シルバーを『あしたのジョー』における力石徹と位置づけたことである。乗りこえるべき悪役ではあるものの、シルバーは人生の先達として、男の中の男として、実に魅力的に描かれている。

 ジムは裏切りに怒り敵対することになっても、シルバーのことを撃ち殺したりは絶対にできない。そして、それはシルバーの方も同じだ。ジムのことが気になって仕方がないのである。両者とも、その真意は軽々しく口にしない。そこが格好良く感動的なポイントだ。

 事件の発端から出航、船上の事件を経て宝島到着、そして対立と謎解きに至るプロセスをじっくり描いた全26話の長大な時間も魅力のひとつだ。そこで起きる葛藤は出崎演出のエッジの立った映像で入念に描かれ、感情が積み重なって層をなしていく。

 物語の流れと登場人物たちの心の動きにシンクロして観ると、時間があっという間に過ぎてしまうのも本作の特徴だ。「はやく次を!」と連続再生しているうちに、全26話はあっという間に過ぎてしまうはず。まさにBOX向けの作品と言える。

 HD化については、35mmネガ原版のポテンシャルを存分に引き出し、色の鮮やかさがリッチな気分にさせてくれる。とりわけすばらしいのは、小林七郎美術監督による背景画の色とディテールの再現度だ。船の中でも心理的効果のあるライトグリーンやパープルを大胆に配置し、要所には描きこまない部分を大きなおいて視線をたくみに誘導する。そして筆目やクレヨン調のザラツキのあるタッチを残し、その勢いでジムやシルバーの胸のうちなど、シーンの大事なものを代弁させる。

 リアリズム主体の傾向が強い近年のアニメとは対極の、心理と絵が直結した「アートの世界」が眼前に展開する。その美術の表現力が向上したのが、今回のBD-BOX最大の収穫である。

 これを「不朽の名作」と言わずして何と言おう。世代を超え、永遠に語り継がれるべく傑作をぜひ観てほしい。

【2012年2月1日脱稿】初出:「月刊HiVi(ハイヴィ)」(ステレオサウンド刊)