女王様のご生還 VOL.162 中村うさぎ

ネットゲームで男キャラをやっていると、自分の中のミソジニーを目の当たりにして動揺することがある。

また、女性キャラ同士のいがみ合いを傍観者として見るにつけ、「女はどうしてこんなに同性同士で憎み合うんだろう」と暗澹とした気持ちになる。



女性間で嫌われ排除される人は、たいてい「男に色目を使う女」たちだ。

自分の彼氏を盗られたとかならともかく、自分は何の被害にも遭ってないのに、とにかく「男を誘惑する女」をあんなに激しく憎悪するのは何故だろう?

べつにほっときゃいいじゃん。



まぁ、自分もいずれこの女に好きな男を取られるかもしれないという危機感なんだろうけど、これって世の中の女性たちが売春婦やヤリマンに抱く侮蔑と嫌悪に繋がっていると思うので見過ごせない。

男に簡単に股を開く女は安っぽくて下品で自分より下位の女である……と同時に、「脅威」でもある。

「自分より下位の存在が実際には自分にとって脅威である」というのは、男女問わずあらゆる人間にとってもっとも許せないものなのだ。

黒人差別やユダヤ人差別の根源も、そこにある。

白人はアフリカから奴隷として連れてきた無教養で野卑な黒人たちをバカにしながらも、彼らの強靭な肉体や運動能力に劣等感を刺激され、「下位の者から脅かされるダメな自分」への嫌悪をそのまま黒人に投影した結果、彼らを激しく憎むようになった。



ユダヤ人差別も同様である。

キリスト教徒にとってユダヤ教徒は救世主イエスを殺した宿敵だが、ユダヤ人に対する憎しみはそれだけではない。

ユダヤ人たちには賢く商売上手な者が多い。

それを狡猾さや低俗な拝金主義として軽蔑しながらも、その優秀さを認めざるを得ず、「あんなやつらを野放しにしたら大変だ」という危機感がヘイトに変わる。

ユダヤ人差別といえば真っ先に思い浮かぶのはナチスだが、ユダヤ人差別を発明したのはヒットラーではない。

シェークスピアの「ベニスの商人」の悪役シャイロックは、「強欲で血も涙もない金の亡者のユダヤ人」として描かれている。

当時からユダヤ人に対してそういうイメージが浸透していたのだ。



自分よりはるかに上位にいる者たちに対して、このようなヘイトは発生しにくい。

王室を批判する英国民はいても、ロイヤルファミリーを差別対象にして迫害するようなことは起こらない。

せいぜい彼らのスキャンダルを揶揄し、自分たちと対等な位置に引きずりおろそうとする程度だ。

やはり、「自分より下位のくせに!」という見下し感がヘイトには必要不可欠なのである。



だから女たちはヤリマンや売春婦に激しい憎悪と敵意を抱き、彼女たちがまんまと男をたらし込むと、たとえそれが自分と何の関係もない男でも平静ではいられなくなる。

「何よ、あのビッチ!」という怒りが爆発してイジメたりネットで叩いたりという見苦しい行動に出るのだ。

そういうのを見てると、心の底から残念な気分になる。

そして、自分の中のヘイトの正体がじつは嫉妬や羨望や危機感であることも自覚せず、あたかも「ビッチに制裁を下す私は正しい」とでも言わんばかりのその傲慢さと愚かさにも辟易するのであった。

そう、偉そうに言ってる私もまた、彼女たちを間違いなく見下している(苦笑)。

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