BDアニメ New Frontier 第8回『涼宮ハルヒの憂鬱』

※2011年1月発売号の原稿です。

【惹句】2000年代の動向を大きく変えた学園SFアニメの傑作。ついにワンパッケージに!

 2006年に全14本で制作されたTVアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』は、主人公のキョンがエキセントリックな女子高生・ハルヒのサークル活動SOS団の非日常的な騒動に巻き込まれる物語。ライトノベルブームを代表する小説(谷川流)が原作だ。ネットユーザーを直撃する新時代の表現は大歓迎されて盛りあがり、制作の京都アニメーションは高クオリティのブランドと認知されて、『らき☆すた』や『けいおん!』とヒット作を連発する。エンディングの通称ハルヒダンスは世界中のアニメファンの間で流行し、YouTubeが後押しをするなどの大変革を起こした。後の流れを一変させた点で、2000年代を代表する記念碑的な作品となったのである。

 初出時は独立UHF局で放送されたが、物語内の時間順をシャッフルして入れ替えた形式も話題を呼んだ。本来なら設定紹介をすべき第1話で学園祭の自主映画をまるまる流して初見の人間を混乱させ、数話続くエピソードに他の話が割り込むなど、大胆な構成をとったのだ。そんな騒ぎを呼ぶ打ち出しがユーザーのコミュニケーションを活性化させ、ブームに拍車をかけた。

 約3年後の2009年には、再び『涼宮ハルヒの憂鬱』というタイトルの新番組がスタートする。これは「第2期」ではなく「全28話に増量」という珍しいケースとなった。つまり2006年版を時系列に並べ直すとともに、未アニメ化エピソードを間に追加したものなのである。だが、ここでまたしても大事件が起きる。「エンドレスエイト」と呼ばれるエピソードは、ハルヒの特殊能力で夏休みの同じ時間がリセットされて繰りかえされる設定だが、実際に8話分ほぼ同じ展開を完全新作で反復したのだ。当然、時間をムダにするなとブーイングが巻き起こったが、主人公ハルヒのお騒がせ体質が乗り移ったかのようなアニメだという事実は、ますます忘れがたいものとなった。

 そんな騒動の果てに出たBD BOXは実に鮮明な高画質で、今度は美的に嬉しい驚きがあった。間に約3年をはさんでいるため、画質の落差があり得ると覚悟していたが、解像度や発色など心を洗われるような感動を覚えた。特にハルヒの制服のスカイブルーと朝比奈みくるの栗毛は実に鮮烈で強い印象を残す。「エンドレスエイト」も各話の色彩設計の違いなどが実に明瞭に分かるのだ。同時期に劇場版の『涼宮ハルヒの消失』もBDでリリースされているため、これなら最初からもう一度、高画質でハルヒとSOS団に付きあってもいいなと思わせる納得のBD化であった。

【2010年12月24日脱稿】初出:「月刊HiVi(ハイヴィ)」(ステレオサウンド刊)