BDアニメ 厳選!俺流アニメ 第6回『もものへの手紙』『009 RE:CYBORG』

※2012年11月発売号の原稿です。当時公開の劇場映画レビューつきです。

【惹句】心揺れる少女とユーモラスな妖怪の出逢い。スキのない映像を隅々まで堪能!

(本文 17×60)

●しっとりした情感の作画が 伝えてくる親子愛

 2012年はアニメーション映画の表現域を拡げる意欲作が頻出した年である。4月公開の『もものへの手紙』もその1本だ。物語は父を亡くした少女「もも」が、東京から瀬戸内海の島に引っ越すところから始まる。残された母との微妙な感情の断絶、本文のない手紙を残して手の届かない世界に去った父への想い、地域社会がなじめない感覚など、複雑な心境がユーモラスな妖怪たちとの交流でほぐされていく。

 特筆すべきは、緻密でリアリティあふれるアニメーション作画。ていねいで確かな画力で1枚ずつ描かれたシャープな線のキャラの演技力は物語に漂う清涼感を高め、「親子の愛」という普遍的な感動を確かに信じられるものとしていく。

 原案・脚本・監督を手がけるのはアニメーターとしてもトップクラスの沖浦啓之。『人狼 JIN-ROH』('00)から12年ぶりの監督作だが、ピュアで迷いのない仕上がりを見れば、準備から完成までに7年かかったのも納得の密度感である。

 季節が「夏休み」という点も、映画の内容にふさわしい。郷愁をさそう田舎の生活風景は、都会に住む人間からすればそれ自体がファンタジー的な異界だ、三者三様のユーモラスな妖怪たちとの出逢いと別れ、驚き笑って怒って泣く少女の感情の揺れは、最後に夏休みだからこその解放感へと昇華し、心に染みる。

 細部まで描かれた背景美術や淡く渋い色彩設計など、本作のデリケートさは、まさしくBlu-ray向き。日本のアニメーション映画が到達した頂点のひとつを堪能してほしい。

●あのサイボーグ戦士たちが 混迷の世界を駆け抜ける

 今月の必見映画は2012年10月27日から公開中の『009 RE:CYBORG』。石ノ森章太郎による原作漫画『サイボーグ009』を『攻殻機動隊S.A.C.』の神山健治監督がフル3DCGでアニメ映画化した。世界で発生した同時多発テロは、神らしき超越的な存在が仕掛けた人類滅亡への誘導なのか。壮大なスケールの危機を受け、各国に散っていたサイボーグ戦士たちが再結集するが……。

 全編通してキャラクターをCGで描いているが、アウトラインを残したアニメ的ルックで伝統的な日本式の動かし方を踏襲して違和感を減じている。003フランソワーズの艶やかさ、主役009のヒーロー性など、みどころが満載。没入感を工夫した3D立体視で、あっという間に時間の過ぎるアクション大作だ。

【2012年10月30日脱稿】初出:「月刊HiVi(ハイヴィ)」(ステレオサウンド刊)