女王様のご生還 VOL.259 中村うさぎ

チェコで12歳に見える大人の女優(要するに童顔の成人女優)を3人使ってSNSをさせ、小児性愛者たちがどのように食らいついて来るかを実験したドキュメンタリー映画がある。

「SNS 少女たちの10日間」というタイトルの作品だ。

女優たちは「12歳」と自称して男たちとメッセージやスカイプでやり取りするのだが、寄って来た男たちが子供相手に性欲丸出しでめちゃくちゃ笑える。

ひとりの男はスカイプで話しながら机の下でこっそりマスタベーションしており、女優が「ねぇ、片手で何やってるの?」と尋ねると「ん? ああ、ちょっとね、磨いてるんだよ」(←何をだよっ!)とトボケて背後のスタッフが爆笑するシーンなどもあって、まぁそのへんは微笑ましくもあった。

たぶん、微笑ましいなんて感じるのは私だけかもしれないが。



だが、男たちは相手が子供だという事で完全にナメきっており、図に乗って「ちょっとシャツを脱いで胸を見せてよ」「パンツ脱いでごらん」などとしつこく要求するようになる。

あまりにしつこいので根負けして胸でも見せようものなら「おまえのオッパイ写真を母親や学校に送りつけるぞ。それが嫌ならパンツも脱げ」なんて脅迫して来る者も出て来る。

子供というのは高圧的な大人に逆らえないものだから、その習性を利用するのだ。

なんと卑劣なヤツらだろうか。

私は小児性愛者に同情的な立場だが(だから「磨いてるおじさん」に寛大だったりする)、さすがにこれは酷いと思った。

脅したりすかしたりして子供を脱がせた挙句、その写真を撮ってさらなる脅迫のネタにするなんて!

自分が12歳の頃にこんな事やられたら、死ぬほど怖い思いをするだろう。

実際、このような脅迫を受けてにっちもさっちもいかなくなり、自殺するティーンエイジャーもいるそうだ。

親バレが怖いから、もちろん親にも相談できない。

そうやって、どんどん追い詰められていく。

まだ家庭と学校しか世界を持たない彼女たちにとって、これは死に値する大問題なのである。



さて、女優たちはスタッフと相談のうえ、しつこく「会おう」と言ってくる男たちの何人かと実際にカフェで会う事にする。

例の「写真ばらまくぞ」と脅迫して来た男も、そのひとりだ。

少女(のふりをした女優)を無理やり拉致しようなどという暴挙に出られた場合に備え、男性スタッフが何人かカフェの客を装って監視する。

ところが、現れた脅迫男はタトゥーなど入れてイキがってはいるものの、いざ少女を目の前にすると意外におとなしく、「どうして脅迫なんかするの?」と詰め寄る少女に対しても反撃するどころか目を伏せて叱られた犬みたいにしゅんとしているのだった。

ネットではあんなに居丈高に振る舞っていたのに、このギャップには失笑した。

ネットで偉そうにしてるヤツに限ってリアルで会うとめちゃくちゃ臆病だったりするのはもちろん知っていたが、ここまで典型的な例を目の当たりにするとなんだか哀れになって来る。

一方、女優は脅迫の件がよほど腹に据えかねていたらしく、いきなり立ち上がって男の顔に飲み物をぶちまけると、椅子を蹴倒して憤然と去って行った。

まぁ、彼女の気持ちはよくわかる。

同じような脅迫をされてひとりで悩み抜いた挙句に自殺してしまった少女たちの事を思うと、この卑劣な脅迫男に鉄槌を下したくもなろうってもんだ。

でも、私だったらここで彼を懐柔して話を引き出したいけどな。

このような男の心の中をもっと深く覗いてみたい。

彼をこのような行動に走らせるのは、単に性欲や支配欲だけではないだろう。

そこには様々なコンプレックスや抑圧された怒りや痛みが渦巻いてるに違いない。

それをひとつひとつ取り出して検証したいのだ。

せっかく素晴らしいサンプルが現れたのにジュースぶっかけて退場なんて、残念極まりない。

いや、気持ちはわかるけどさ。

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