ニューハーフバーで働くMちゃんは、豊胸手術と睾丸除去手術済み(要するにオッパイとペニスがある)だったのだが、つい最近、胸のシリコンを抜いたのだという。
「せっかく入れたのに、なんで抜いちゃったの?」
「いやぁ、わかんないんですけど、なんかある日急に『オッパイ要らない!』って思っちゃって」
まぁ、その気持ちはわからないでもない。
私も去年、「もうオッパイ要らない!」と思って胸のシリコンを抜いたからだ。
しかし私の場合、もう64歳のババアだから今さら偽物オッパイなんかあっても意味ないし、肥って去年の服が入らなくなったのでむしろオッパイ邪魔だし、という合理的(?)な理由があった。
だがMちゃんは、女性の身体が欲しくてオッパイを入れたはずだ。
抜いてしまったら男の胸に戻っちゃうわけだけど、それでいいのか?
「いいんです。あたし、女になりたいわけじゃないんです」
「え、じゃあなんで手術したのよ?」
「なんかニューハーフバーで働いてると、周りがみんな当たり前みたいにオッパイ入れたりタマ抜いたりするじゃないですかー。それで、ついつい自分も欲しくなっちゃったんですけど、よくよく考えたら要りませんでした」
「いいのか、それでー!」
「よくないです、はい。あははー(笑)」
いやぁ、面白いなぁ。
確かに「周りの空気に影響される」っていうのは、よくある話だ。
たとえばバーゲンみたいに周囲が血眼で商品を取り合ってるような場にいると、それにつられて欲しくもない物を買っちゃったりね。
でもニューハーフの性転換手術って、買い物とは動機が全然違うはずだ。
「自分は間違って男(女)に生まれてきたのであって、本当は女(男)だ」という性別への確固たる違和感から、やむにやまれず手術をするのだ……と、今まで会ったトランスジェンダーたちは口を揃えて言っていた。
私は自分の性別に疑問を持った事がないのでその違和感がいまひとつピンと来ないのだが、それはまぁ子供産んだ事ない人には出産の痛みがわからないのと同じで、他人には理解できなくてもきっと当事者には明確に「自分は女(男)だ!」という確信があるのだろうと思っていたのだ。
なのにMちゃんはオッパイ入れてタマまで抜いておきながら「よくよく考えたら女になりたいわけじゃなかった」などと言う。
自分が男か女かなんて、よくよく考えなきゃわかんないような事なのか、それ!?
Mちゃんにとっての性転換手術は、もしかしてコスプレみたいなものなのかもしれない。
なら手術までしなくても女装すりゃいいじゃないかという話だが、しかしより完璧なコスプレをしたくて肉体改造まで考えるのはコスプレ好きの私にはちょっと理解できる。
私もアニメキャラに似せるために整形を検討した事があるからだ(←バカなのか?)。
そう、女装やコスプレ衣装着るだけじゃ、どうしても限界あるもんね。
もっともっと対象に近づけたいと思ったら、そりゃもう整形するしかないかもな。
性別の違和感に真剣に悩み苦しんでいるトランスジェンダーの人たちには不謹慎に聞こえるかもしれないが、そもそも「女」というジェンダーだってコスプレの一種だと私は思うのだ。
生物学的にも自己認識的にも間違いなく女ではあるものの、「私って女だわぁ~」などと心の底から思った事など一度もない。
自分が女だと意識する時は、常にどこか「女ごっこ」をしている感がある。
心の赴くままに振る舞えば、たぶん私は男でも女でもない生き物なのだと思う。
だからこそ、セクシーなタイトスカートやかわいいワンピースを着たりする事にワクワクするのだ。
普段の自分じゃないからこそ、楽しいのよ。
これってやっぱコスプレだよね。