女王様のご生還 VOL.35 中村うさぎ

私は基本的に「優しい人間」ではないと自覚しているので、その欠点を補うべく、できる限りは他人に優しくしようと努力している。

誰かに何かを頼まれたら協力は惜しまないし、相手が図に乗って少々厚かましいと感じても我慢する。



が、それはあくまで私に余裕のある時だけだ。

多忙だったり、いろいろと考えなくてはならないことが多くてストレスが掛かってたりすると、たちまち私は本来の狭量な人間に戻る。

そして、私を「優しい人」と勘違いして甘えてきた人間に腹を立て、必要以上にきっぱりと撥ねつけたりしてしまうのだ。

でも、彼らに「優しい人」と思わせたのは自分であるから、彼らが甘えてくるのは私のせいである。

最初から優しくなんかしなければよかったのだ。



「優しい人間になりたい」という願望を満たしつつも、他人から甘えられずに済む方法はないのだろうか?

自分が他人に甘えられるのが嫌いなので、できるだけ他人に甘えないように心がけている。

私が他人にあれこれと要求しなければ、向こうも節度を持って接してくれると期待しているわけだ。

だって「ギブ&テイク」が成立してなかったら、先方も気が引けるでしょ?

ところが甘えてくる人間というのは、一方的に「テイク」を求めてくる。

私に「あれもやって。これもやって」と頼むばかりで、自分からお返しに何かしようなどとは考えないようだ。



これは私にとって、非常に不思議なメンタリティである。

何かをしてもらったら、お返ししたいと思うものではないか。

たとえ相手が何も見返りを求めなくても、だ。

なのに「この人は自分に何かしてくれて当然。そして自分はもっぱら、してもらう側」なんて思えるのはどういう精神構造か、と考えた。

で、思い当たったのだが、これは「子どもの考え方」なのではないか。

確かに私は子どもの頃、親に面倒を見てもらって当然だと思っていたし、特に恩返しをするつもりもなかった。

父は私を養って当然、母は私のご飯を作って当然、と思っていたのだ。

まぁ、彼らは私を産んだわけだから、私の養育が義務であることは確かだ。

だから、私が彼らに養われて当然だと思っていたのも、あながち的外れではない。



だが、「私に甘えてくる人々」は、私の子どもでもなければ夫でもない。

何の義務も発生しない、赤の他人である。

なのに何故、彼らは当然のような顔をして私にあれこれ要求してくるのか。

もしかして、私を母親だとでも思っているのか。

お返しをしろとは言わないが、おねだりはいい加減にして欲しい。

なーんてことを考えてしまう私は、やはり心が狭いのだろう。

他の人はきっと、こんなことくらいで怒らないのだと思う。

私だって怒りたくないんだが、本当にしんどい時にあれこれ言われると、つい怒りが込み上げてしまう。

甘えんじゃねーよ!と、怒鳴りたくなってしまう。

記事の新規購入は2023/03をもって終了しました