女王様のご生還 VOL.269 中村うさぎ

母が死んで数か月経ち、ようやく母の銀行口座の凍結が解除されたらしい。

「らしい」というのは、すべてを父が牛耳っているので、私には皆目わからないからである。

母の銀行口座には約600万円ほどの預金があった。

法的にはその半分を父が、残りの半分を私が相続する。

つまり、約300万円ずつ山分けするわけだ。

ところが父は、その全額を自分の口座に振り込んで欲しいと銀行に頼んだという。

銀行から電話があり「よろしいですか?」と訊かれたので、「いいですよ」と答えた。

元々、父の稼いだ金である。全部欲しいなら、そうすればいい……と、自分的には大変鷹揚な気持ちで承諾したのであるが、不満なのは父がその件について私にまったく感謝の意を表さない事だ。

べつにいいけどさぁ、「ああ、典子は自分の取り分も俺に譲ってくれたんだな」とか少しは思って欲しいわけよ。

なのに父は、私に相続権がある事を知らないのか、当たり前のように自分の金だと思っている様子なのだ。

なんか、ムカつく。



しかもその後、父から電話がかかってきて曰く、

「あのなぁ、お母さんの遺した600万円だけどな」

「うん」

「俺は老い先短いし、おまえに全部やろうと思ってるんだ」

「そりゃどうも」

いや半分は私の金なんだけどね、と心の中でツッコミ入れつつも相槌を打つと、

「で、明日、おまえの口座に振り込んでやるよ」

「ありがとう」

「正月だしな。おまえもいろいろ物入りだろう」

「うん、いや、まぁ」

「じゃあ明日振り込むからな、50万円」

「え、50……?」

なんだよ!600万円じゃねーのかよ!

おまえに全部やるって言ったから、てっきり600万円振り込んで来るのかと思ったら、50万円って何っ!?

そもそも300万円は私の金なんだぞーーっ!

わかってんのか、こらぁ!



うん、たぶん、父はわかってない。

母が死んでから、父は急激にボケ始めた。

会話も噛み合わないし、物忘れがハンパない。

まぁ、90歳だもんな。そりゃ脳も劣化するだろう。

だが、しかし!

いくらボケてるからって、この恩着せがましさは耐え難い。

こないだも電話で話してる時に「おまえは俺の扶養家族だろ」などと言ったので驚いて「いや、違うよ。私は自分で確定申告してるし、世帯主だし、誰にも扶養されてないよ」と答えたら、「だって俺はおまえに送金してやってるじゃないか。俺が生活費出してんだから、おまえは俺に扶養されてんだよ」などと言いやがった。

誤解のないように言っておくが、私は父に生活費など貰ってない。

そりゃ何年か前に引っ越しが重なったせいで出費がかさみ、助けてもらった事はある。

が、金を無心したのはそれっきりである。

その程度で「俺が扶養してる」なんて偉そうに言われる筋合いないからね!

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