女王様のご生還 VOL.229 中村うさぎ

このメルマガの読者さんでトークイベントにもよく来てくださるA子さんが、以前、興味深い女性の話をしてくれた。



A子さんは「彼女」とネットのコミュニティで知り合った。

とても感じのいい人で魅力的な人だったそうだ。

他にもB子さんという友達もでき、A子さんとB子さんと「彼女」はとても仲良くなった。

が、ある時、A子さんは「彼女」からB子さんについての嫌な話を聞く。

鵜呑みにしたわけではなかったが、「彼女」が嘘をついているようにも思えなかったので、A子さんは困惑した。

それに気づいたのかB子さんの態度も心なしか少しよそよそしくなり、A子さんとB子さんの間には微妙な距離が生じてしまった。



しばらくはそんな感じだったのだが、何かがおかしいと引っかかったA子さんは、少し疎遠になりかけていたB子さんに思い切って話しかけてみた。

そして二人で腹を割って答え合わせをしてみたところ、どうやら同時期にB子さんも「彼女」からA子さんに関してよくない話を聞いていて、なんとなく気まずい思いをしていたという。

どうやら、すべては「彼女」の仕業であったらしい。

とても感じのいい「彼女」がそんな事をするなんて、俄かには信じられなかった。

そもそもA子さんとB子さんを仲違いさせて、「彼女」にどんな益があるというのだ?

B子さんと話しているうちに、「彼女」についての不審な点が他にもいろいろと出て来た。

「彼女」は重い病気に罹っていて余命がいくばくもないと言っていたが、それにしてはいつも元気そうだし、症状についてもほとんど話さない。

もしかして、虚言?

A子さんとB子さんに吹き込んだ悪口も根も葉もない嘘だったし、病気の話も嘘かもしれない。

そうやって疑い出すと、「彼女」の言動には辻褄の合わない部分がたくさんあるのだった。



A子さんの疑問は、「彼女はいったい何がしたいのか?」である。

ふむ……私は「彼女」を全然知らないので偉そうな事を言う資格はないが、無責任な感想を許していただけるのならば、「常習的な虚言」「意図的な心理操作」「非常に外面がよく魅力的」といった特徴は、すべて「サイコパス」の定義に当てはまる。

サイコパスは他人を操るのを楽しむ傾向があり、嘘をつく事など屁のカッパだ。

罪悪感を抱くどころか、自分の嘘にまんまと踊らされている人を見るのが快感なのだ。

A子さんとB子さんの仲に嫉妬したのもあるかもしれないが、二人が近づき過ぎると自分の嘘がバレる危険度が増すのであえて遠ざけたというのが真相だろう。

この手の人は、自分のついた嘘がバレて人間関係が破綻するという経験を、今まで何度も繰り返し経験してきている。

だからできるだけ嘘がバレないように、周りの人々の情報交換を遮断したいのだ。

そんな面倒くさい謀り事を巡らせるくらいなら最初から嘘なんかつかなきゃいいじゃないか、と思うのだが、この人たちにとって嘘は喫煙や飲酒と同じくらい習慣性の高い嗜癖なので、こればかりはどうにも止まらないのである。



いくらでも正体を偽れるネット社会は、「彼女」のような人にはじつに居心地のいい場所だろう。

リアル社会では嘘がバレると信頼を失い居場所を失くす危険性が高いけど、ネットでは簡単にアカウントごと消して姿をくらます事ができるし、新しいアカウントで別人に生まれ変わり何事もなかったようにまた同じ嘘をついて他人を弄べる。

例の「重病」に関しても、もしそれが嘘だとしたら、非常に動機がわかりやすい。

要するに、他人の注目が欲しいのだ。

みんな他人の不幸話が大好物だから、いくらでも構ってくれるし気遣ってくれる。

リアル社会で仮病を使うと「ミュンヒハウゼン症候群」だが、ネットではこんなもの普通に横行しているだろう。

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