女王様のご生還 VOL.225 中村うさぎ

トークイベントや自著の中で何度も言っているように、若い頃の私の目標は「自立した女になる事」であった。

経済的にはもちろん、精神的にも誰にも依存せずに、たったひとりで生きていける女だ。

何故そんな目標を立てたかというと、ひとえに両親の影響である。

ひとりで喫茶店に入る事もできないほど臆病で依存心の強い母を、思春期の頃の私は情けない女だと感じていた。

同時に、そんな母を偉そうに支配している父に自分までマウント取られるのが嫌で、とにかく自立すれば好きなように生きられると己に言い聞かせていた。



まぁ、そのおかげで自分ひとりで食っていけるようになり、臆することなくどこへでもひとりで遊びに行ける図太さも身につけて、ついでに面倒くさい元夫とも離婚して存分に単身生活を満喫していた30代の頃、私は自分を大いに誇りに思っていたのである。

要するに「ドヤ顔」だったわけですよ。

ところが!!!

当時付き合っていた男のひと言が、そんな私の鼻を見事にへし折ったのであった。



その男は既婚者で、私と彼の関係はいわゆる「不倫」であった。

「不倫でもいいから好き!」などと思っていたラブラブ期間は1~2年で終わり、会社帰りに私の家に寄ってはセックスして自宅に帰っていく男にムカつく日々が続くようになったその頃、「あんた、結局、奥さんと別れる気なんかないんじゃん?」と言った私に彼はこう答えた。

「あんたはひとりで生きていけるけど、あの人(妻)はひとりで生きていけない女だから」

「!!!!!」

私は絶句したね。

ひとりで生きていける女になろうとひたすら頑張って、それを実現した自分を誇りに思っていたけど、こと恋愛においては「ひとりで生きていけない女」の勝ちなのか!

何それっ!? おかしくない!?



よくよく考えてみれば、私は別に彼と結婚したかったわけではないし(ていうか、もう結婚は懲り懲りだったし)、彼が「ひとりで生きていけない」奥さんと別れなくたって特に問題なかったのだが、それでもあの言葉は私に大きな衝撃を与えた。

「ひとりで生きていける女」とは、つまり男を必要としない女という事なのか?

いやまぁ、確かに経済的にも精神的にも男の助けは必要ないけどさ。

だからって、夜明けにそそくさと帰っていく男の背中を見ながら仏のように平穏な気分でいられるわけじゃねーんだよ!

何だろう、このバカにされたような気持ちは。

君は偉いね、俺なんかより収入あるしひとりで生きていけるよね、という言外のニュアンスには、リスペクトどころか嘲笑すら含まれているように感じられた。



この男とは程なくして別れる事になるのだが、今思えば、あの言葉が魚の小骨のように私の心に引っかかっていたせいかもしれない。

あれ以来、私は彼に対する黒々とした復讐の念を抱えるようになったのだ。

ああ、そうさ。私はひとりで生きていける女だよ。あんたなんかいなくたって平気だもんね。見てろよ、そのうち捨ててやる。

彼が通いやすいようにとわざわざ近所に借りた部屋を引き払い、はるか遠くの麻布に移り住んだ。

そこで出会った女性と意気投合して新宿二丁目に通うようになり、夜な夜なひとりでオカマバーに遊びに行くようになった。

当然、彼と過ごす夜は減っていき、ついに別れを切り出した時に彼は言った。

「へぇ~、俺はオカマに女を盗られたってわけか」

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