女王様のご生還 VOL.260 中村うさぎ

ジェフリー・ダーマーは、私の好きなシリアルキラーのひとりである。

17人の青少年を殺害し、あまつさえそのうちの何人かの肉を調理して食った事から「ミルウォーキーの食人鬼」などと呼ばれた男だが、彼の殺人は他のシリアルキラーたちとはちょっと毛色が違う。

シリアルキラーの多くは、拷問や殺害自体にサディズム的快感を覚えるタイプだったり、あるいはレイプが主な目的で殺害は口封じのためだったりするものだ。

しかし、どうやらダーマーはそのどちらでもなかったようだ。

相手を殺してからセックスしたために彼を「ネクロフィリア」と断定する人もいるようだが、それも少しズレているような気がする。

確かに彼は生きている人間とセックスするのが苦手だったようだし、少年時代から動物の解剖や内臓に並々ならぬ興味を示し、シリアルキラーになってからは殺した相手の頭蓋骨を部屋に並べていたりもした。

でも、だからといって彼の殺人の動機が死体への愛着だったとは限らない、と私は思うのである。

彼が欲しかったのは、もっと別の物ではないか、と。



というのも、彼が他のシリアルキラーには見られない奇妙な行為をしているからだ。

被害者の何人かの頭蓋骨には、ドリルで開けた穴の跡があった。

供述によると、彼は相手が薬で眠っている間にドリルで頭に穴を開け、そこから塩酸を流し込んだという。

何故そんな事をしたかというと、「ゾンビにして生かしておきたかったから」らしい。

要するに「ロボトミー手術」のような施術をして、自由意志を持たずおとなしく言いなりになる存在にしたかったというのだ。

だが、当然ながらそんな原始的な手法が成功するはずもなく、相手はあっさり死んでしまった。

そして私は、彼が本当にやりたかった事は死体のレイプでも殺人でもなく、この「ゾンビ作り」ではなかったか、と思う次第である。

彼は美しい男たちを殺したかったわけではない。

死体と寝たかったわけでもない。

ただただ、自分を拒絶しない従順な男が欲しかった。

それには、彼らの自由意志を奪わなくてはならない。

何故なら、自由意志を持つ人間たちは、必ず彼を傷つけたり離れていったりするからだ。



ダーマーが最初に殺人を犯したのは高校生の時である。

当時、彼は生まれ育った家にたったひとりで住んでいた。

彼の両親は離婚しており、父親は離れた町で新しい恋人と暮らし、母親は彼の弟を連れて家を出て行ったまま二度と戻って来なかった。

要するに、彼は家にひとりで置き去りにされたわけだ。

彼は学校に行かずに家で酒浸りの日々を送るようになった。

孤独ですさんだ毎日である。

そんな彼が夢想したのは、いつも近所をジョギングしている青年とのセックスだった。

しかし1970年代当時、ゲイは人に言えない恥ずべき性癖であった。

ジョギング青年に声をかけて仲良くなってセックスするなんて、とてもじゃないが実現しそうにない夢だ。

そこで彼は、ジョギング青年をバットで殴って気絶させ、家に連れ帰ってセックスしようかと考えるようになった。

実際、バットを握って茂みに隠れ、その青年の前に飛び出した事もある。

青年はすっかりビビッて一目散に逃げてしまった。

大失敗である。

ダーマーはますます引きこもりになり、空っぽの家でひとり酒を飲みながら男とのセックスを夢見てオナニーする思春期を過ごす事となる。

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