氷川竜介のアニメ総合研究所 第24回『イノセンス』(2004年作品)

【指令】

 サイボーグの本音は純愛? 映画『イノセンス』押井守監督の真意を探れ!

 世界中に影響を与えた押井守監督の『GHOST IN THESHELL/攻殻機動隊』('95)。その続編が、2004年に公開の映画『イノセンス』である。

 性的愛玩用のアンドロイドが殺人を始め、公安9課のサイボーグ捜査官バトーが相棒トグサと真相究明に乗り出す。セリフや映像表現が複雑なサイバー世界は難解と言われたが、ストーリーは案外単純だ。

 怪しいルートを追ったら隠蔽工作を依頼されたハッカーがあぶり出され、そのルートで機械人形メーカーの大犯罪が暴き出される。何のひねりも分岐もない。

 しかし、主人公バトーの内心では激しい葛藤が起き続けている。彼の悩みは身体を機械化し過ぎて生きている実感を持てないことと、同じ悩みを抱いていた素子(1作目でネット生命体と融合して失踪)への未練が中心だ。その感情を隠そうとネット検索でややこしい言い回しを選んでいるわけだ。

 バトーは今回の「人間のような人形」を追えば、必ず素子と再会できると確信している。物語の核には、そんな秘められた愛と、表に出せば壊れてしまう機微と純情がある。

 映像的にはデジタル技術によって手描きとCGを混乱させて観客を幻惑し、微妙な心情を新たな表現に高めようとしている。携帯電話やネットに依存した現代社会では、デジタル的に明文化しないと気持ちも伝わりにくくなった。だが本当に大事な感情とは、本来は秘めることでこそ高まるはずだ。

 そんな内圧の高い愛があるという前提で、裏の物語をぜひ発見してほしい。

【ドラゴンレーダー】

 押井守監督最新作『スカイ・クロラ』(2008年8月2日公開)も、生きている実感の持てない現代人へ向けたメッセージ性の強い映画だ。また、7月16日からは『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊2.0』という押井守監督自らがリニューアルした改訂版も公開されている。いずれも最先端の映像が注目の問題作である(注:公開当時のコラムです)。

【2008年7月4日】初出:「スカパー ! TVガイド」(東京ニュース通信社)