女王様のご生還 VOL.64 中村うさぎ

ネットで「死ね」などという言葉を吐く人間を、心の底から軽蔑する。



嫌いな相手、憎い相手、不快な相手は誰にでもいる。

だが、そいつが本当に死ねばいいと思っているのなら、君は「不快な人間はこの世界から排除すべき」という危険思想の持ち主だ。

ユダヤ人を大量虐殺したナチスとまったく変わらない心根じゃないか。



で、もし本気ではなく言っているのなら、君は「言葉」を粗末に使う人間だ。

言葉はコミュニケーションのためにあるツールだ。

喧嘩してもいいし議論してもいいが、「死ね」という言葉はコミュニケーションの全否定ではないか。

そのような言葉の使い方をする者は、きっと言葉に呪われる。

ましてや物書きを名乗っている人間がそんな言葉を吐くなんて、物書きという職業に対する侮辱でもある。

今すぐ、文章書くのをやめなさい。



と、このように私が怒っているのは、友人の伏見憲明氏がお店で開催したトークイベントがプチ炎上したと聞いたからだ。

このトークイベントは「正しくないLGBT研修」というタイトルで、トランスジェンダーの研究をしている佐々木掌子氏をゲストに迎え、トランスジェンダーについてレクチャーしていただくという趣旨のものだ。

人々がみんな「正しさ」を武器に他者を攻撃するウンザリするようなこの世の中で、「正しくないLGBT」という文言が非常に気に入って、ぜひとも行こうと思っていたのだが、体調が悪過ぎて行けず、とても残念だった。



ところが、このイベントに「正しい人たち」が怒ったようだ。

まぁ、炎上の内容については、私はフェイスブックを見てないのでコメントしないが、そのイベントに来ていなかった人たちも便乗して騒ぎ立て、中には伏見さんに「死ね!」などと言った人もいると聞いて心からウンザリした。



他人に反論するのはいい、議論討論も大いに結構だ。

でもな、どうしてそんなに簡単にひとに「死ね」とか言えるんだろう?

しかも、それを言った人がライターを名乗っている人だったので、ますます唖然とした次第である。



いやしくも言葉を扱う仕事に就いているなら、言葉にリスペクトを払いなさいよ。

本気の言葉には「言霊」が宿ると私は信じている。

本気で考えて、本気で投げかけた言葉には、必ずその人の魂が宿るんだ。

そう信じてるからこそ、私は今日も全力投球でこんな駄文を書いていられる。

言葉に魂を宿すのが物書きの仕事じゃないか。

どんな言葉も粗末に扱っちゃいかんだろ。

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