必携アニメ大絵巻 第11回『忍風カムイ外伝』

※2010年4月発売号の原稿です。

【惹句】激動の時代を孤高に駆けた忍者カムイ、BDに焼きついた日本独自の配色

 掟を破って抜忍となった男、その名はカムイ。次々と迫る追っ手を変移抜刀霞斬り、飯綱落としなどで倒し、孤独に逃走を続ける。そんな異色のテレビアニメが1969年の『忍風カムイ外伝』(原作/白土三平)だ。松山ケンイチ主演で2009年に実写映画化されたことも記憶に新しい名作である。

 放送当時、日米安全保障条約の自動延長(通称:70年安保)を目前に学生運動などの階級闘争が社会を騒がせていた。白土三平は支配階級への反逆を「体制から離れて戦う忍者」に託して描き、それが激動の時代を生きる人びとの胸を打った。TCJ動画センター(後のエイケン)は同じ原作者の『サスケ』に続いて本作をアニメ化した。荒々しい劇画タッチを直線的でシャープな線に置き換え、死を見据えて人里離れて生きるカムイのハードボイルドな人物像をフィルムに焼きつけたのである。

 今回、ブルーレイ化で改めて再現されたフィルム本来の映像を見たとき、描線のデリケートなニュアンスとともに、この作品特有の配色が醸し出す「美」に衝撃を受けた。「色」をどんな言葉でとらえるかというアニメ以前の問題を、改めて思い出したのだ。

 われわれはふだん西欧で規定された名称と配列をベースに色を識別している。学校でも24色の色鉛筆や水彩絵の具をベースに学ぶ。しかし自然界に存在する色は無段階で変化するもので、その分類も仮のものにすぎない。そして日本古来から伝わる色には「水浅葱(みずあさぎ)」「萌葱(もえぎ)」「栗色(くりいろ)」「弁柄(べんがら)」「小豆色(あずきいろ)」など、自然の風土から命名された微妙な色あいが多数存在する。

 『カムイ』の色の世界とは、その「和風」で構成されているのだ。ブルーレイの精度の高い発色の再現性で改めて、そう気づかされたのである。青系統のナイトシーンや、荒涼とした枯れ草の風景に同系統の夕陽などという情緒あふれる場面は、その渋めの色彩があるからこそ胸に迫る。彩度控え目の和風が意図である証拠に、血の宿命を背負った主役カムイの赤い衣装に染め抜かれた「丸印」だけは彩度の高い蛍光ピンクで塗られ、そこだけ注目を集めるよう設計されている。

 流血も人死にもある凄惨な現実が、逆に「生」を照射するという大人びた魅力のひとつはこうした独特の色のバランスで支えられていたのだ。驚くべきことに、この作品はその後40年間も続く『サザエさん』の前番組で、制作スタッフもほぼ同一だ。両者にはネガとポジのような関係として「日本の姿」が焼きついているという視点で見るのも、また一興ではないだろうか。

※編注:本作はベストフィールド「想い出のアニメライブラリー 第56集忍風カムイ外伝 Blu-ray」として2016年に全2巻で新規映像なども含め再発売されています。発色は初出と若干異なっています(個人の印象です)。

【2010年3月29日脱稿】初出:「月刊HiVi(ハイヴィ)」(ステレオサウンド刊)