氷川竜介のアニメ総合研究所 第8回『うる星やつら2 ビューティフ ル・ドリーマー』(1984年作品)

【指令】「夢と現実、その差は? 映画『うる星やつら2』に押井守監督がしこんだ毒のメッセージを発見せよ!」

 鬼娘の異星人ラムちゃんが、高校生・諸星あたるの押しかけ女房に? そんな萌えのルーツ的美少女作品が、高橋留美子の漫画『うる星やつら』だ。アニメ版は今や世界が注目する作家・押井守監督の出世作。その作家性が全開になった映画が『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』である。

 あたるの通う友引高校は、文化祭前日で準備の慌ただしさに包まれていた。ところがなぜか「前日」は毎日続き、季節なども混乱していく。やがて異状に気づいた人物たちは、友引町から姿を消し始め……。そんな怖い非現実的な内容が、ギャグ混じりで軽妙に語られていく。

 その世界の正体とは作り出された「夢」なのだが……。注目すべきは全編通じて描かれるユートピア的な楽しさ。前日の準備を永遠に繰りかえす期待感に充ちた日々や、コンビニの商品を全部食べつくす都合のいい秩序の崩壊。そうした破天荒な行動の中から、現実って何? 夢って? という少しピリピリする毒の部分が見え隠れする。

 そう、ここで問題にされている「夢」とは「アニメ」や「映画」の本質なのだ。アニメの主人公は歳を取らないと良く言われる。『うる星』のあたるも高校を卒業しない。それは「永遠に成長しない繰りかえし」を意味する。しかし、観客の方はいつかは歳をとるわけだ。

 それでも永遠に繰りかえし同じものを見続けるのか? 監督として作り続けられるのか?

 押井守が甘い理想郷の中に毒のメッセージを仕込んだとすれば、そんな疑問だろう。爆笑しつつ、ふと我に返って慄然とする。これはそんな映画なのである。

【ドラゴンレーダー】

 ここまで極めて作家性を放った押井守は、直後にアニメ版『うる星やつら』の監督を降板。「虚構と現実」はその後も押井守が追い続ける永遠のテーマとなっていく。2004年の超大作『イノセンス』は、その集大成なのだ。今や無責任な虚構の情報に悩まされるネット時代。真実と虚構を隔てるものとは何か? その主題はますます重要となっているのだ。

2007年3月5日脱稿初出:「スカパー ! TVガイド」(東京ニュース通信社)