母の認知症は「アルツハイマー症候群」で、脳の委縮によってさまざまな障害が出ると言われている。
アルツハイマー以外にも脳の前頭葉と側頭葉にダメージを受けて同じような症状を示す認知症は他にもあり、たとえば「ピック症」と呼ばれる若年性認知症などもアルツハイマーとよく似ている。
ピック症は40歳~60歳で発症するので、「まだ老人じゃないし認知症は大丈夫」と思っている中年の人でも油断できない。
アルツハイマーとピック症に共通して見られる症状は「社会性の著しい低下」だ。
これは私が母を観察していて強く実感したことでもある。
見栄っ張りで世間体ばかり気にしていたあの母が、なりふり構わぬ言動をするようになった。
昔は心で思っていても「こんなこと言ったりしたりしたら周りからどう思われるか」という自意識が強いストッパーとなって彼女を制御していたのだが、それが解けた今は「剥き出しの本性」を露わにするようになった。
他人(じつは自分の夫なのだがw)が自分の金を盗んでいるという猜疑心、派手な服装の見るからにふしだらそうな女(娘の私なのだがww)が夫を誘惑し自分のテリトリーを荒らそうとしているという被害妄想などなど、彼女がおそらく潜在的に抱いていたであろう「他者への敵意と怒り」を隠そうともしなくなったのである。
これは私にとって大変に興味深い現象であり、「社会性という後付けの自意識を失うと人間はどんな生き物になるのか」を顕著に体現する存在となった。
我々は生まれた時から社会性を身につけているわけではない。
あくまで「後付け」で習得するものだ。
だが、その後付けの習性こそが「人間性」だと一般には考えられている。
残虐非道な行為を見て「人間とは思えない」などと評する人は少なからずいるが、私に言わせれば「あれが人間の本性でしょ」だ。
人間という生き物は、他の動物よりも遥かに利己的で残虐であり、だからこそ食物連鎖の頂点に立つことができたのではないか。
しかしその本性のままでは他者と共存できないので、幼いうちから「社会性」というものを叩き込まれる必要があるのだ。
「社会性」は決して人間の本性ではない。
だから、社会性を失った認知症患者に対して「人間性を失う」といった表現を使うのは、人間という生き物を買いかぶり過ぎだと思うのである。
そんな事を考えながら、「ピック症」についてネットで調べていたら、案の定、「ビック病とは?人間らしさが奪われるその病気を詳しく解説」というタイトルが出てきて笑ってしまった。
「人間らしさ」って何ですかね?
そこでさっそく件の記事を読んでみた。
認知症患者が失う「人間らしさ」に興味があったからだ。
以下、その抜粋である。
「ピック病の代表症状・万引き、盗難、怒り、暴力、社会的ルールを無視する・痴漢行為・決まった時間、場所などで同じ行動を繰り返し行う・不潔でも気にならなくなる・無気力・料理、洗濯などの生活能力の低下・暴食・拒食・食べられないものを食べようとする・人の物真似をする・同じ場所を周回、どこへ向かっているかわからず徘徊・失語、言語能力の低下」
ちょっと待って!!!
これ、かなり私に当てはまるんだけど!
まぁ「万引き」「盗難」「痴漢」などの習性はないものの、昔から怒りっぽくて些細なきっかけで突発的に怒りを爆発させるし、平気で社会的ルールを無視するし、決まった時間に決まった店でコーヒーを飲まないと気が済まないという強迫的な「儀式行動」の繰り返しも私の生活習慣の特徴だった(足が不自由になるまでは)。
そしてさらに「不潔でも気にならない」し「無気力」だし「料理や洗濯」は一切しないし、暴飲暴食の傾向は間違いなくある。
これが「人間らしさを失う病気」なのだとしたら、私はかなり若い時分から人間らしさを持ってないということになるではないか。
ああ、驚いた。
よくギャグで「人間失格」とか自分で言ってたけど、ギャグじゃなく本当に私は人間失格だったのだ!