女王様のご生還 VOL.86 中村うさぎ

この原稿は、「うさぎ図書館」の後に書いているので、テーマが続いていることをお詫びしたい。

「うさぎ図書館」では、1969年に女優シャロン・テートを含む複数のセレブたちを殺害したマンソンファミリーのスーザン・アトキンスについて語った。

https://bit.ly/2O5N8WP

ちなみにこの人ですね。

どこにでもいる、ちょっとかわいい女の子といった感じ。

特に狂気などは感じられないし、もちろんモンスターじみた風貌でもない。

どこから見ても普通の女子。

だが、その内面には黒々とした欲望が渦巻いているのだった。



その欲望を、私は「狂気」とは考えない。

「狂気」とは、他の人々と共有不可能な独特のものだが、彼女の欲望は私たちの誰もが内包しているものである。

それは、「自分は特別な存在でありたい」という選民的なナルシシズムだ。

私たち人間が例外なくこの欲望を持っていることは、人気のアニメや漫画やゲームで一目瞭然だ。

そこには本人に自覚はなくても神や運命から「選ばれた者」が必ず登場する。



ほら、「ハリー・ポッター」なんて、その典型でしょ?

無力で凡庸で人並み以下だと周囲から侮られていた少年が、じつは選ばれた血筋と運命を生まれながらに持っている、という話。

みんな、こういう話が大好きだ。

そして、自分も「選ばれた者」でありたいと強く願う。

その願望は、まったく「狂気」ではない。

ただのナルシシズムだ。

だが、それが幻想であることを人はどこかで学ぶものなのだが、学べない者は少なからずいて、そういう人々がたまに狂気じみた事件を起こす。

しかし、それは「狂気」ではなく「愚かさ」なのだ。



スーザン・アトキンスは家出少女だったという。

彼女の生育環境を私は知らないが、家庭に居場所がなく孤独な少女だったのだろう。

孤独は強い「承認願望」を生み、自分を認めてくれる相手を必死で探し求める。

チャールズ・マンソンはまさにそういう存在であり、彼のマンソンファミリーが彼女の疑似家族として機能したことは想像に難くない。

と、ここまでは非常にわかりやすく、なんなら共感や同情さえ覚える「よくある話」だ。

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