女王様のご生還 VOL.155 中村うさぎ

私は消化器系が弱いのでしょっちゅう腹を下すのだが、もちろん普通の大便をする日も少なからずある。

で、この普通の大便をした時にですね、ものすごい気持ちよくて、しばらく排便の余韻にうっとりと浸ってしまうんだけど、これって私だけだろうか?

みんなの排便事情を訊いたことがないのでわからないのだが、なんて言うのかな、こう「出し切ったぜ!」的な達成感がハンパなくて、たぶん脳内麻薬が出てるんだろうなと思う。

でも何故、排便ごときで脳内麻薬が出るのか?

謎である。



以前、大島弓子の猫エッセイ漫画を読んでたら、彼女の飼い猫が排便後にものすごくハイテンションになって部屋中を駆け回るという話が描かれていて、「猫よ、おまえもか!」と妙に感動してしまった。

にしても、謎は解けないままだ。

どうして、猫も私も、排便後に脳内麻薬が出るんだろう?



私のこれまでの人生で脳内麻薬がドバドバ出た経験は、ブランド物の服を買った時と恋愛で盛り上がってる時と、あとは後楽園のフリーフォールに乗った時くらいだ。

あ、酔っ払って調子乗ってた時も出てたな(笑)。



このうち、ブランド物買いと後楽園のフリーフォールは、まったく同じ原理で脳内麻薬が出たと解釈している。

要するに、「スリル」だ。

破産するかもしれないという危機感と隣り合わせの買い物と、死ぬかもしれないという恐怖と隣り合わせのフリーフォール。

このハラハラ感が気持ちいいわけだが、おそらく脳が恐怖を克服しようとして気前よく脳内麻薬を出すからだろう。

恋愛において分泌される脳内麻薬は、言うまでもなくナルシシズムの快感だ。

「愛されている、必要とされている」という幻想が私の欠落感を埋め、束の間、自分が価値ある存在だと実感できる。

アルコールによる脳内麻薬は、説明するまでもなかろう。

アルコールはそのために嗜好品として存在するからだ。



だが!

排便による脳内麻薬は意味がわからない。

フロイトに言わせれば「肛門期」の快感という解釈なんだろうけど、私はあまりフロイトを支持していないので、きっと別の理由があるのだと思う。

だってフロイトによると「肛門期」の快感は幼児期のトイレトレーニングに関係するそうだが、猫はべつにトイレトレーニングなんかしないもんな。

わざわざ飼い主がトレーニングしなくても、生まれながらに「地面を掘って糞を埋める」という習性を持っているので、砂箱さえ用意すれば自発的にそこで排便するからだ。

したがって排便の快感はナルシシズムの問題ではなく、私の買い物やフリーフォールのように「危機感」と関連しているのではないか、と愚考する次第である。

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