女王様のご生還 VOL.188 中村うさぎ

30年位前の話だが、私の周りの編集者たちの間で「リプレイ」という小説が話題になっていた。

40代の若さで突然死した主人公が18歳から人生を何度もやり直すというストーリーだ。

以前にも言ったが、私はこの「過去を改変すべく別の時間軸で何度もやり直す」的な話がわりと好きだ。

アニメなら「シュタインズ・ゲート」「ひぐらしのなく頃に」「魔法少女まどか☆マギカ」などが、このテーマを扱った名作である。



が、じつのところ、私はこの「リプレイ」という小説にはあまり興味を惹かれなかった。

というのも、この小説を読んだ人々が「あそこで俺の人生やり直したい!って気持ち、あるよなぁ」などといった感想を述べているのを聞いて、まったく共感できなかったからだ。

正直、私は自分の人生をやり直したいと思ったことがない。



まず第一に、自分は運だけで生きてきたと思っているから、もう一回やり直しても次回は運に恵まれる保証がない。

そうなると自分の実力で生きていかなければならないわけで、そんなの悲惨な運命しか見えて来ないから絶対嫌だ。

そもそもこんな怠惰で努力嫌いの私がまがりなりにもエッセイストなんかで食っていけたのが奇跡なのである。

もう一回人生をやり直したら、今度はこうはいくまい。



第二に、人生において重要な選択や決断を今まで何度か体験してきたが、もう一度やり直しても同じ選択をすることが目に見えている。

それが「私」だからだ。

何度やり直しても、私がこの「私」である限り、同じ過ちを繰り返すだろう。

ホストにハマったり買い物依存症になったりする自分を制御できるとは思わない。

いっそホストクラブに行かないという選択肢もあろうが、たとえ相手がホストじゃなくても似たような愚行はやらかすに違いない。

だって、そういう愚かしき過ちを避けて賢く堅実に生きられるなら、それはもう「私」じゃないよ。



私が「人生をやり直す物語」を好むのは、人生やり直せばハッピーエンドだなんて思っているからではなく、過去を改変するたびに起きるバタフライ・エフェクトが面白いからだ。

誰かを助けようとして時間を巻き戻し過ちを正したと思ったら、その影響で今度は別の誰かが死んだりする。

そいつを助けようともう一度やり直したら、次はまた思いも寄らない不幸が襲いかかる。

この悪あがきを延々と繰り返して、最終的に「自分は何を諦めるのか」に辿り着く(必ずしも正解とは限らないが、少なくとも自分が納得できる結末を選択する)のが、この手の物語の醍醐味である。

でも、それはあくまで他人の人生だから面白いのであって、自分の人生で試す気は毛頭ない。

「何を諦めて何を諦めないか」は、私が私である以上、既にはっきりしているからだ。

何度繰り返しても同じだよ。

子供を産むという選択はないし、クズ男に惚れてバカな恋愛を繰り返した挙句、ゲイの親友をパートナーに選ぶだろう。

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