氷川竜介のアニメ総合研究所 第1回「鋼の錬金術師」(2003年作品)

【指令】「若い女性が熱中! 異世界の《錬金術》が現代人のハートをゆさぶる秘密を探れ!」

金術! 物質を黄金に変換させるこの秘法は、現実世界では科学時代の前に淘汰され、今では株価操作など「いかがわしい手段」の代名詞になっているほどだ。しかし、本作は違う味つけに成功した! 物質を別の物質に変化させる錬金術が物理学よりも発達、国家の繁栄を支えている架空の錬金術世界アメストリスを構築したのだ。

 主人公、エドワード・エルリック(エド)も、華麗に錬金術を駆使して戦う国家錬金術師の一員。機械の義手となった右腕を武器に錬成するため、「鋼の錬金術師」のふたつ名を得た。他にも「炎の錬金術師」「豪腕の錬金術師」などが、続々と登場する。彼らが繰りひろげる凄まじい錬金術バトルは、実に圧巻のビジュアル! 乙女の心も鷲づかみにしてしまった。

 そして錬金術の大きなタブーにも注目! 「人体錬成」を行うと、大いなる災いが……。エドと弟アルも、死んだ母の復活を試みた代償に身体を喪ってしまった。そんな「喪失の痛み」を抱えた兄弟が支えあいながら生き抜く毅然とした姿は、乙女の純な心をキュッと締めつけたのだ。「人は何かの代償なしに何かを得ることができない」という錬金術の「等価交換の原則」は、「金を稼ぐためには何をしてもいい」と行動しがちな、現代人の醜さへのカウンターかもしれない。さらにその向こうに見えてくるものとは……。

 第28話以後は、大半がアニメ用オリジナルストーリー。続々登場するホムンクルスの哀しい末路や、明らかになる真の宿命など、みどころが満載。錬金術は、真剣に生きる人の姿を照らし出す光なのだ!

【ドラゴンレーダー】

本作は、錬金術をめぐるキャラクターの多様さと、それぞれ背負った運命が魅力的だ。主人公のエドとアルは錬金術の犠牲者と言えるが、敵の人造人間ホムンクルスや謎の男スカーもまた、錬金術に心の傷を負わされている。彼らはほぼ全員、どうしようもない動機と葛藤を抱えており、どれもが正しく思えてくる。この激しいぶつかりあいが病みつきに!

【2006年8月7日脱稿】初出:「スカパー ! TVガイド」(東京ニュース通信社)

氷川竜介

1958年兵庫県生まれ。アニメ・特撮研究家、明治大学大学院客員教授。東京工業大学卒。文化庁メディア芸術祭審査委員、毎日映画コンクール審査委員などを歴任。日本SF作家クラブ会員。海外での展示会・映画祭での講演経験多数。文化庁向けに「日本特撮に関する調査報告書」「日本アニメーションガイド ロボットアニメ編」を執筆。主な編著、参加書籍:「20年目のザンボット3」(太田出版)、「世紀末アニメ熱論」(キネマ旬報社)、「アキラ・アーカイヴ」(講談社)、『細田守の世界――希望と奇跡を生むアニメーション』(祥伝社、2015年)、「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム from 1989」(国書刊行会)など。