女王様のご生還 VOL.264 中村うさぎ

成田三樹夫という俳優が好きである。

「仁義なき戦い」シリーズや「極道の妻たち」シリーズといったヤクザ映画の常連とも言える役者さんで、眼光鋭く痩身でカミソリのようなイメージの人だ。

が、名悪役というだけなら他に何人もいるし、実際、ある時期まではその中のひとりに過ぎなかった。

私が彼に一気に興味を持ったのは、1978年のTVドラマ「柳生一族の陰謀」である。

そのドラマの中で彼が演じた烏丸少将文麿という人物がめちゃくちゃ素晴らしかったのだ。

烏丸少将文麿は架空の人物で、柳生一族の敵役として登場する。

当時の公家らしく白塗りのなよなよした人物で、普段は扇を口に当ててオホホなどと笑っているのであるが、じつは武士に引けを取らぬ剣術と弓の達人で、いざとなるといきなり別人のように精悍な顔つきとなって八面六臂の活躍をするというギャップの激しいキャラクターであった。

この突然の変貌ぶりがじつに凄まじく、本当に同一人物とは思えない顔つきの変わりようで、その圧倒的な演技力に目を瞠った。

以来、すっかりこの俳優の虜になってしまったわけである。



そして翌年の1979年、「うさぎ図書館」でも触れたTVドラマ「探偵物語」で主演の松田優作につきまとう間抜けな刑事役を演じ、これがまた絶妙の気持ち悪さと面白さであった。

この人、凄い!

それまでヤクザ映画の常連としか認識していなかったけど、ただの悪役じゃないよ!

こんなに特殊なキャラをこんなに魅力的に演じられる俳優って、そうそういないね。

たとえばヤクザ映画といえば高倉健とか鶴田浩二とか菅原文太あたりが看板俳優だけど、じゃあ彼らに烏丸少将文麿が演じられるだろうか?

かっこよさとか凄みだけじゃダメなんだよ。

まぁ、菅原文太ならコミカルな役も難なくこなせそうだが、やはり成田三樹夫ほどの怪演は望めない気がする。

なんていうのかな、菅原文太はどこまで行っても菅原文太なんだ。

そこが彼の魅力なんだろうけど、同時に、彼の限界でもある。

だが、成田三樹夫は何者にもなれる。

人外の境界すら軽々と越えて、得体の知れない妖怪にだって、何なら宇宙人にだってなれるのだ。

しかも全然安っぽくない、本物の怪異に。

彼が醸し出す妖気には、誰も真似のできない本物の不気味さがある。



若い頃の成田三樹夫の写真を見るとキリッとしたイケメンだったりするのだが、当時から眼光は鋭く、タダモノではない雰囲気を漂わせている。

この「タダモノではない感じ」がどこから湧いてくるのかわからないものの、後年の彼の役柄の不気味さに多大な貢献をしているのは確かである。

容貌魁偉というほどの特殊な顔立ちではなく、どちらかというと普通にそのへんにいそうな顔なのだが、「こいつ、何かある」と思わせる雰囲気が漏れ出ているのだ。

同様に「べつに普通の顔立ちなんだけど、なんか怖い」と私が感じた人物はもうひとりいて、それは1978年に山口組三代目の田岡一雄組長を狙撃した鳴海清だ。

鳴海清もまた、どこにでもいるような風情の目立たない容貌なのだが、どこかタダモノではない異質さを纏っている。

もちろん犯罪者として雑誌に載っている写真だから、こちらの先入観もあるだろう。

しかし、それだけではないと確信させる「何か」が、その面差しにはあるのだ。

記事の新規購入は2023/03をもって終了しました