※2014年5月発売号の原稿です。当時公開の劇場映画レビューつきです。
【惹句】カナダにひろがる美麗でおごそかなる自然の風景が、常識破りの少女の成長を見守り続ける!!
●世界中の少女を感動させた物語を長大なる時間で丹念に描く
NHK朝の連続テレビ小説『花子とアン』でも中心的役割をはたしている『赤毛のアン』はL・M・モンゴメリによる長編小説。男の子と間違われてカスバート家の老兄妹に孤児院から引きとられた少女アン・シャーリーが、その空想力と聡明さ、勝ち気で活発な生活で周囲を大きく変え、自身も成長していく。
永らく世界中で愛されている本作は、1979年に高畑勲監督が「世界名作劇場」で全50話という長さでじっくりと映像化した。このアニメ版もまさに必見と言える不朽の作品である。
約100年前、カナダのプリンス・エドワード島にひろがる大自然と農耕生活。ナチュラルな光と色に充ちた景観、大量消費から大きく隔たった時代の動植物との共生の中で、大きく触発されるアンの内面が最大のみどころだ。
学校生活での友人関係や、家族との間で生じる喜怒哀楽など感情の振幅は、いつの世にも通じるもの。特に1年間の長丁場で描かれた、季節の推移と主人公たちの大きな成長ぶりは、名作アニメ数ある中でも屈指と言えよう。
今回のBlu-ray化では35mmネガからリマスターを行った結果、自然描写がより浮きたつ印象となった。青空に遠く浮かぶ雲、道ばたに咲く花の鮮やかさ、森の木々の瑞々しさや小川の透明感など、井岡雅宏氏による背景美術は実に魅力的だ。桜吹雪のセル画にも蛍光ピンクが入っているなど、新たな発見もある。
特典ディスクには近藤喜文氏によるキャラクター原画やイラスト、宮崎駿氏(第17話まで)のレイアウトなども収録され、多角的に楽しむことが可能。まさに心が洗われるような清冽なコンテンツではないだろうか。
●圧巻の高密度で展開する宇宙世紀の秘密、争奪戦の行方
今回の必見映画は、イベント劇場公開による大ヒット作『機動戦士ガンダムUC』。最終章のサブタイトルは「episode 7 虹の彼方に」である。今回はいつもより長い90分尺に加えて小説版の作者・福井晴敏構成による「百年の孤独」というダイジェストを上映。宇宙世紀を見つめてきた“その人”の声は、先日急逝された永井一郎さんが生前に収録されたもので、まさしく記念碑的な作品となった。
高密度のモビルスーツ戦闘シーンは、さらに磨きぬかれて一瞬たりとも目が離せない。そして激戦の中で加熱していく主人公たちの激情は、長年ガンダムが問いかけてきたものを改めて観客に突きつける!
【2014年4月25日脱稿】初出:「月刊HiVi(ハイヴィ)」(ステレオサウンド刊)
※なお、連載はタイトルを変えて現在でも同誌で継続中です。