女王様のご生還 VOL.237 中村うさぎ

アン・ネヴィルの人生は、まるでジェットコースター並みに起伏が激しい。

ヨーク家の重臣として権勢をふるっていたウォリック伯の娘として生まれた頃は、周囲からチヤホヤされるお嬢様。

しかしその後、父のウォリック伯が敵方のランカスターに寝返ってヨークに反旗を翻したため、ヨーク家からすると憎き裏切り者の「逆臣の娘」となった。

ウォリック伯はランカスターとの絆を深めるためにアンをエドワード王太子に嫁がせたため、一瞬はランカスター家のプリンセスになったわけだが、そのエドワード王太子がヨークとの戦いに敗れて死亡(戦士という説もあるし処刑という説もある)。

父のウォリック伯も戦死し、舅のヘンリー6世もヨーク家に処刑されて、姑のマーガレット・アンジュ―は牢に入れられた。

アンは投獄を免れたものの、「逆臣の娘」「敵方のプリンセス」というその立場はヨーク宮廷において針の筵であったろう。

そんな彼女に、ヨーク家の王弟リチャードが求婚。

彼と結婚した彼女は逆賊から一転して国王の親族となり、国王亡き後は夫のリチャード3世が王位に就いたため、なんと王妃様になってしまった。

幸福な子供時代から不幸のどん底の時代を経て、再び栄華の絶頂へと辿り着いたのだ。



が、しかし!

イングランドの王妃の座に輝いた彼女であるが、ひとり息子の王子は病で夭折し、彼女自身も病に侵されて、29歳の若さで命を散らす。

王妃になって僅か2年の間の出来事だった。

あっけない。

父親の政治的な策略に振り回されてさんざん辛い目に遭った挙句、ようやく白馬の王子様に救われたというのに、なんと悲劇的な末路だろうか。

アン・ネヴィルがいったい何をしたというのだ。

そう、アン・ネヴィルは「何もしなかった」のだ。

少女時代はただただ父の言いなりに生き、父の死後はびくびくと暮らし、そこに王子様が現れたのでこれ幸いと結婚した。

彼女の生き方に比べれば、姑(最初の夫エドワード王太子の母)のマーガレット・アンジューの方がよっぽど猛々しく運命に抗った女である。

まぁ、その猛々しさゆえにマーガレット・アンジューはきわめて評判が悪く、シェークスピアの戯曲でもまるで恐ろしい魔女のように描かれているのだが、それでも男たちの政治に翻弄され続けたアン・ネヴィルよりは気骨がある。

気の弱い夫ヘンリー6世に代わって軍隊を指揮し、さんざんヨークを悩ませた彼女は、「もうやるだけやったぜ」という気分で死んだことだろう。

一方、アン・ネヴィルは根っからの「白雪姫」であった。

自ら戦うこともせず、なりゆきに任せて笹舟のように流されるだけ。

どのみち非業の死を遂げるなら、存分に抗って悪足掻きした方が生きた甲斐もあったと思うのだが、どうだろうか。



マーガレット・アンジューは狼、アン・ネヴィルは羊。

マーガレット・アンジューは悪い魔女、アン・ネヴィルは白雪姫。

この姑と嫁は水と油のごとく相容れない存在であった。

言うまでもなく私はマーガレット・アンジュー寄りの性格なので、こんな娘が息子の嫁に来たら始終イラッとしてイジメてしまいそうだ(苦笑)。

そうか!

魔女が白雪姫を疎んじたのは、その若さと美貌に嫉妬したせいだと言われているが、もしかすると羊のように従順で無気力な白雪姫に日頃からイライラさせられていたのかもしれない。

それならわかる!

自力で人生を切り開いていく気概のない人間は、自分の人生に責任を取る胆力もない。

人の言いなりに生きてれば、すべて人のせいにできるもんね。

で、白馬の王子様が助けに来てくれるのをのほほんと待ってるわけよ。

何の努力もしないくせに、幸せになる権利があると思い込んでる。

図々しいにも程があるわ!と、性格悪い魔女は腹の底で舌打ちするのだ。

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