女王様のご生還 VOL.164 中村うさぎ

最近。パタリと実家からの連絡が途絶えた。

電話かかってくるとウザいから最初は喜んでたんだが、あまりに連絡ないのでだんだん心配になってきた私である(苦笑)。

二人とも老人だしな、まさかコロナで倒れてんじゃないだろうな?

母が倒れたら父が病院に連れてって私に報告するんだけど、父が倒れた場合は厄介だ。

認知症の母はおそらく救急車すら呼べないだろう。

父の様子がおかしいことにも気づかないかもしれない。

そうして、誰にも知られず死んでしまった父の遺体と一緒に平然と暮らしてる可能性もある。

すると父の遺体はどんどん腐って異臭を放ち……って、うわああああああ!!!!!



いかん!

想像してたら背筋が凍ってしまった!

とりあえず電話をかけてみよう!



とゆうわけで、珍しく私から実家に電話した。

「もしもし?」

電話に出た父の声にホッとする。

生きてたね、父ちゃん。



「あ、典子だけど」

「ああ。典子か。どうした?」

「いや、べつに。元気かなと想って」

「うんまぁ、元気だよ」

「お母さんの様子はどう?」

「お母さんは……相変わらずだな。家の中のいろんな物がなくなって、とんでもない場所から出てくるんだ」

「お母さんが隠しちゃうんだね」

「うん。テーブルの上に置いてた時計とか財布とかな」

「まあ、それは仕方ないね」

「こないだは、洗濯して置いといた俺のパンツが3枚消えたよ」

「ふーん……財布とか時計みたいな貴重品ならわかるけど、お父さんのパンツなんかどうして隠すんだろね?」

「隠すって言うか……穿いてたわ」

「えっ!? お母さんがお父さんのブリーフを!?」

「うむ。しかも3枚重ね穿きしてた……」

「ぶはははははは!!!!!」



電話口で思わず大爆笑してしまった。

父のパンツは白くてでっかいおっさんブリーフだ。

それを母親が普通に穿いてる姿を思い浮かべると、あまりに滑稽で腹の底から笑いがこみあげてくる。

しかも、まさかの3枚重ね!

なんでっ!?



たとえばこれが男女逆転のケースなら、ボケた夫が妻の女物パンティを穿いたと聞くと何かそこに性的な匂いを感じる。

ボケて理性の抑制が外れたため、思わぬ性癖が露わになったと私は解釈するだろう。

だが、母が父のおっさんブリーフを穿く行為には、何の性的要素も感じ取れない。

だって、あんな白くて大きいダサブリーフ、エロくも何ともないもん!

なんであんなモノ、3枚も穿いてんのよ!?

お母さん、意味がわかりません!



ぷくくくと笑いながらいろいろ考えてるうちに、ふと思った。

そうか、母はついにジェンダーから解放されたんだなぁ。

「妻は夫に従いつ~」みたいなジェンダーロールを固く信奉して生きてきた母であるから、当然、服装や言葉遣いや振る舞いにも「女は女らしく」と考える人であった。

だが、ボケが進んで、男物のブリーフと自分の女物のパンティの見わけもつかなくなったというか、そんな男女差なんか気にかけなくなってしまったようだ。

いやぁ、これは大変喜ばしい事ではないか!

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