女王様のご生還 VOL.219 中村うさぎ

前回、私の腐った性癖……すなわち「レイプ物のエロ漫画には興奮するけど、それが男女間のレイプだと痛々しさや怒りの気持ちが邪魔をしてエロい気分になれないので、自己投影しないで済むBL漫画のレイプ物を楽しんでいる」という趣旨の話をした。

まぁ、私の性癖など世界一どうでもいい情報だと思うが、ここで考えたいのは「世の中には日常の社会規範や倫理に反する性癖を持つ人間が少なからず存在する」という事実についてである。



言うまでもなく、レイプは許されざる行為だ。

自分もレイプなんかされたくないし、他人がレイプされた話にも憤りを感じる。

若い頃に痴漢やセクハラに遭った時の怒りや屈辱感は決して忘れられるものではないし、暗い夜道で男に尾けられたり車で追いかけられたりした時の恐怖は今も生々しく記憶している。

追いかけられる側、狙われる側がどんなに背筋の凍る思いをするかを想像することもなく、己の欲望のままに女を獲物として認識する獣じみた男たちを、私は反吐が出るほど憎悪している。

が、その一方で、レイプ物のBLに性的に興奮してしまうという、この矛盾。

現実ではないフィクションの中でなら我が身を危険に晒すことなく「無理やり犯されちゃってるうちに気持ちよくなってきて、ああん/////」的エロ妄想を楽しめるが、それが日常生活で実際に起きたらたまったものではない、というこの奇妙な齟齬を、男たちに理解してもらうのは難しい。

何故なら彼らはもともと「狩られる側」に身を置いたことがなく、成長の過程で他者の性的視線に脅威を感じた経験もないので、「レイプ物で興奮するって事はやっぱレイプされたいんでしょ」という単純な発想しかできないからだ。

「私は心が女なの」と自称するゲイですら、レイプや痴漢に対する女の恐怖を理解できず「え~、痴漢されちゃうとかエロくない~? あたしなら喜んじゃう~」などと平気でのたまう。

おまえらは知らないんだ、断りもなく自分の身体に触られるあの不快感と屈辱感を。

何が「心は女」だ、おまえの考える「女」は生身の女じゃない。

ノンケ男の脳内にある妄想の「女」と変わらないんだよ!



性的ファンタジーはあくまでファンタジーであり、現実に起きるとそれは恐怖や不快でしかなくて、フィクションの中でのみ満たされ得るものだという事を、まずは強調しておきたいと思う。

私を含めた一部の女性がレイプ物のエロに興奮するからといって、それは「現実でもレイプ大歓迎」という事ではないのである。

同様に、戦争物の映画やアニメの中でバンバン人を殺すシーンを楽しんでいるからといって、目の前で本当に人が殺される戦争を肯定しているわけではない。

それはそれ、これはこれ。

人間はファンタジーと現実を分ける事のできる生き物なのだ。

それが理解できないのは、脳の認知力が未熟であるとしか思えない。



「映画やアニメの暴力シーンやエロシーンは観ている者の暴力性や性欲を煽って犯罪に結びつくから規制せよ」という考え方は、実際にそういう作品を観て犯罪を起こしてしまう人々と同様、「現実とファンタジーを分けて考えられない」人々だ。

つまり、両者は同じ穴の狢なのではないかと私は感じる。

もちろん、現実にレイプされた経験があって、たとえフィクションでもそのような描写を目にするのは耐えられないという人々もいるだろうから、そういう人々がうっかり観なくて済むように予め警告するのは必要だろうし、きちんと「棲み分け」する気遣いはあって然るべきだろう。

が、この世から暴力やエロの描写をすべて駆逐してしまえば暴力犯罪も性犯罪もなくなるなどと本気で信じている人がいたら、それはおめでたいにも程がある。

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