■アメリカの利上げ・安定大株主となった日銀・トヨタ株と銀行株等
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●FRBの利上げはトランプ大統領の保護主義に対抗するものともなっている
トランプ大統領は保護主義を経済政策の基本路線にしていて、保護主義であれば国内の雇用が増えるとも考えています。しかしアメリカ経済はもともと保護主義ではなく自由貿易の構造を持っているので、世界最強のアメリカ経済といえども保護主義の路線では絶対にうまくいくはずがありません。保護主義は経済活動を沈滞させ、企業の収益も労働者の実質賃金も下げてしまいます。保護貿易からはアメリカ経済は何の恩恵も受けないのです。だから今やアメリカの経済界では、保護貿易にこだわるトランプ大統領をいつまでも大統領職に就けておくわけにはいかない、というのがコンセンサスになってきました。トランプ大統領に対するアメリカの経済界の信頼はもはや地に落ちてしまっているのです。
そんななかアメリカのFRB(連邦準備理事会)は6月14日にFOMC(連邦公開市場委員会)を開いて3ヵ月ぶりの利上げを決めました。利上げ幅は0.25%。短期金利の指標であるFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標を年0.75~1.00%から1.00~1.25%へと引き上げたのです。これで政策金利は8年半ぶりに1%台になりました。ただし基本的に利上げはドル高につながり、輸入品の価格が安くなるとともにアメリカ企業も海外に進出しやすくなります。それで国内の雇用が減る可能性も高まりますので、トランプ大統領は利上げを嫌っているのです。
つまり、トランプ大統領の保護主義と利上げは相矛盾するということになります。だから、利上げの間隔をできるだけ引き伸ばすことで保護主義を志向する状態を維持しようというのがトランプ大統領の考え方なのです。その意味で利上げはトランプ大統領の保護主義に対抗する手段ということもできますから、トランプ大統領へのプレッシャーをより大きくするためにはFRBも今回の利上げをもっと早い時期に行うべきでした。1ヵ月前でも良かったでしょう。また、FRBは今後の利上げについて年内にもう1回、さらに2018年中に3回行うという方針とのことですが、これらの利上げも畳みかけるようにテンポを速くして実施していくべきです。そうすることがトランプ大統領を追い詰めていくことになります。
なお、6月2日に発表されたアメリカの5月の雇用統計では失業率は4.3%という2001年5月以来の低水準となりました。この失業率の低さが利上げの有力な要因ともなっているのですが、アメリカ企業にとっては失業率の低い今こそリストラの絶好のチャンスなのです。そのことは多くのアメリカ企業も自覚しています。たとえば大手自動車メーカーのフォード・モーターは全世界に約20万人いる従業員の1割を削減する計画で、最近、その第1弾として9月末までに北米とアジア太平洋地域で1400人を削減すると発表しました。この1400人にはもちろんアメリカの従業員が多数含まれています。
フォードは1月にメキシコ新工場の建設を撤回しミシガン州への投資も表明するなど、一時はトランプ大統領の意向を汲んだこともあったわけですが、もうそんなことをするつもりはありません。つまり、今のうちにリストラをしておかないと生き残っていけないと判断しているのです。リストラを行えば企業体質は強化されますから、そうしたアメリカ企業が増えていけば、当然、アメリカの株価も上がっていくことになります。