女王様のご生還 VOL.60 中村うさぎ

私はサプライズが大嫌いだ。

ほら、レストランとかでいきなり店内が暗くなって、ハッピーバースデーの曲が流れて、店員がケーキ運んできたりするビスあるじゃん?

あれなんかも自分がされるの大嫌いで、提案されたら事前に「それ絶対やめてね」と頼むんだけど、たまに事前の了承もなくサプライズでやられると、マジで席立って家に帰りたくなる。



だが、きっと世間の人々はサプライズが好きなんだろう。

海外のドラマや映画なんか観てても、家に帰ると友人たちが部屋の中で待ち構えてて「サプラーイズ!」とか言ってお祝いするシーンがよくあるけど、「おまえら人の家に勝手に入ってんじゃねーよ!」といつも思う。

どうして、あんなことされて平気なんだろう?

私だったらきっと瞬間的に「気持ち悪い!」と感じるに違いない。



世間の皆さんはサプライズが好きなのに、どうして私はこんなに嫌いなのか。

人によってはこんな私のことを「あれは嫌いなんじゃなくて照れてるだけでしょ。内心では嬉しいはず」などと誤解するのだが、私は本当に心の底から嫌いなのだ。

その理由を考えてみたのだが、どうやら私は「驚く」のが嫌いなようなのである。



以前、機会があって診断していただいたら、私はどうやら「アスペルガー症候群」らしい。

この障害の人は、自分が決めたとおりに物事が進行するのを好み、予想外の出来事が勃発するとパニックになると聞いたことがある。

私はアスペルガーといっても軽度の方なので、そこまで几帳面に先の予定を決めないし、想定外の事が起きてもパニックこそ起こさない。

が、たぶん根っこの部分では「予想外のことに驚く」のが苦手なのだろう。

サプライズパーティーなんかされたら、どう振る舞っていいのかわからなくなり、頭が真っ白になって棒のように硬直してしまう。

たぶん、これが私なりの「パニック」なのだ。



そもそも私は誕生日を祝われるのが嫌いなのだが、その理由のひとつには、このような「サプライズ」を何度か仕掛けられて困惑した体験があるからかもしれない。

その証拠に、子どもの頃は、家族や友人に誕生日祝いでケーキやプレゼントを贈られるのが嬉しかったような気がする。

「気がする」というのは記憶が曖昧で、当時の自分の気持ちが思い出せないからだ。

そういえば、昔から母親に「何をあげても嬉しそうな顔をしない」とよく言われたから、もしかすると嬉しくなかったのかもしれない。

「嬉しかった気がする」のは「嬉しく思うべきだ」と自分を言いくるめた結果、そういうふうに記憶しているだけだという可能性も大いにある。

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