BFR(Blood Flow Restriction)トレーニングの作用機序

※この記事は、『バーサーカーコラム』2014年8月22日からの抜粋です。

http://www.berserker.jp/column/show/95

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血流を制限して行うトレーニング、いわゆるBFR(Blood Flow Restriction)トレーニングにおいては、成長ホルモンの分泌によって筋発達がおこるとされてきた。

しかし成長ホルモンによる脂肪燃焼作用は期待できるものの、筋発達にはそれほど貢献度が大きくないということは、これまでに何度も書いている。では、本当の作用機序は?

以前に書いたとおり、まずは分子シャペロン。これはタンパク質の第三次構造の形成を助けるものだが、その一つにグルコース調節タンパク質(GRP)がある。これはグルコースだけでなく、低酸素状態によっても発生する。PI3k/Aktシグナル伝達経路はGRP78の蓄積を促進し、GRP78はmTORを調節する作用があるとされている。

また低酸素状態に反応するHIF(Hypoxia inducible factor)という転写活性化因子。これはαとβの二つのサブユニットからできており、普段はαが働いていない。しかし低酸素状態になるとαとβの両方が働くことができるようになり、VEGF遺伝子が活性化される。

VEGF というのはVascular endothelial growth factorの略であり、血管内皮細胞成長因子のことだ。つまり血管が発達するということに他ならない。

さて、最近の知見によれば、他の作用機序が示されてきている。それを幾つか紹介してみよう。



Blood flow restricted resistance training attenuates myostatin gene expression in a patient with inclusion body myositis.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4042658/



こちらの研究によれば、BFRトレーニング(以下、BFRT)によってミオスタチンの阻害が起こるようだ。65歳の男性が12週間に渡ってBFRTを行ったところ、フォリスタチンが40%上昇し、ミオスタチンのmRNAが25%低下している。なおフォリスタチンはミオスタチンと結合して、その作用を阻害する作用がある。

そして面白いことに、FOXO-3が40%も増加している。この遺伝子は他のところ(ローカーボ・ダイエット関係)で私が良く言及しているが、生体内抗酸化酵素を活性化し、寿命の延長に貢献してくれる可能性があるのだ。

参考:炭水化物がカラダを老化させる?_Part 4

http://www.berserker.jp/column/show/73



そしてもう一つ、BFRTはmTORC1を活性化するという研究もある。

Activation of mTORC1 signaling and protein synthesis in human muscle following blood flow restriction exercise is inhibited by rapamycin.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24691032

Blood flow restriction exercise stimulates mTORC1 signaling and muscle protein synthesis in older men.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2867530/



これらの研究ではBFRTによってmTORC1→P70S6K経路が活性化されてタンパク合成が高まり、それはラパマイシンの投与によって抑制されたということが示されている。

またERK1/2リン酸化はコントロール群の4倍になっている。

面白いことに、BFRTによってAKTはあまり活性化されないようだ。そのため、FOXO-3の減少が起こらないのだろう。

さて問題は血流制限による副作用だ。血栓の形成については良く知られているが、さらに問題となるのは「虚血再灌流障害」である。それを避けるための方法についてPart 2で紹介しよう。