女王様のご生還 VOL.266 中村うさぎ

私は自分の職業において、「ナンバーワンよりオンリーワン」を目指して来た。

ラノベ時代は売り上げが気になり、今月発刊されたラノベの中で自分の作品がどれくらいの位置にいるかを常に意識していたが、途中からそういう闘争心がひどく無意味に思えてきたからだ。

順位なんか関係ない。

他の誰にも書けないような作品を書いている限り、一定の需要はあるはずだ。

今月ナンバーワンになったって、翌月には誰かに抜かれる定め。

ナンバーワンなんて一瞬の栄光だ。

でもオンリーワンは、たとえ一位は取れなくても、息の長い活動に繋がる。



エッセイストに転向してからも、この考えは変わらなかった。

買い物もホストも美容整形もデリヘルも、必ずしも多くの人々から支持を受けられるような行為ではない。

むしろ、嫌われたり軽蔑されたり反発を受けることの方が多いだろう。

でも、ここまでできるのは私だけでしょ?

もちろん私以前にもブランド物やホストやデリヘル体験を書いた人はいるだろうけど、私のような書き方をした人はいないはず。

同じ体験でも、書く人によって全然違う作品になる。

そういう意味でも、私は自分の作品をオンリーワンだと確信しているの。



そんなわけで「オンリーワン」の重要性を信奉してきた私は、「エッセイ塾」の生徒さんたちにも「オンリーワンになれ」と強く勧めた。

あなたにしか書けない作品を書きなさい。

べつに特殊な体験を書けと言ってるんじゃない。

ごく平凡な体験でも、あなただけの視点や表現方法でオンリーワンになればいい。



ところが、ごく最近になって、私は「オンリーワンの弊害」について考えるようになったのである。

それは「オンリーワンにはライバルがいない」という事実だ。

負けず嫌いのくせに競争が苦手な私は、長い間、「ライバルがいない事」もオンリーワンの利点だと考えていた。

だって、常に他人を意識して競い合うのって苦しいじゃん。

オンリーワンなら、他人なんかどうでもいいし、自分だけの道を突き進めばいい。

実際、私にはライバルなんかいないし、目標とする作家さんもいない。

雑誌のインタビューなどで「ライバルは?」とか「目標としている人は?」とか訊かれるたびに、どんだけ愚問だよと心の中で思いつつ「特にいません」と答えてきた。

傲慢だと思われたかもしれないが、本当に他人なんて眼中になかったのだ。

他人に脅かされることもなく、他人を羨むこともなく、自分のやりたい事だけやって書きたいように書くだけよ。

オンリーワンは私にとってひどく快適な場所だった。



が、しかーし!

最近になって気づいたその弊害は、「オンリーワンは進化しない」という点であった。

あまりにも自分頼みだから、自分の殻を破れないのだ。

あらゆる生き物は、食うか食われるかの攻防によって進化してきた。

だが、ライバルや天敵のいない世界で暮らす生き物は、種として停滞してしまう。

私はガラパゴス島で生きるゾウガメのようだ。

日々、命がけで切磋琢磨している生物はどんどん進化を遂げるのに、未だに太古の地球を引きずっているかのような鈍重な身体でボケーッと生きている。

そして、行き着く先は絶滅だ。

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