必携アニメ大絵巻 第1o回『宇宙のステルヴィア』

※2010年3月発売号の原稿です。

【惹句】宇宙を目ざす若者たちを描いたSFアニメ! 『宇宙のステルヴィア』を美麗なるHDリマスターで楽しむ!

 西暦2000年前後でデジタル制作に移行したテレビアニメのマスター原版は一部を除いてSD画質のため、ブルーレイ化もHDへのアップコンバートが多い。PCソフトやPS3など再生機器でDVDからのアップコン機能も一般化しつつある現在、BD化による高画質に疑問をもつアニメファンもいる。だが、方法次第でHD原版に迫るかなり良好な結果が得られる。この『宇宙のステルヴィア』の美麗さには、アップコン否定派も驚くはずだ。秒24コマ作画のアニメの特性を活かし、SDマスター60iをいったん24Pに組み直すことで高画質化を実現。変換時に出るノイズをオーサリングのキュー・テックが細やかに補正したため「これぞHDリマスター」と呼ぶにふさわしい鮮明さが得られた。

 本作は『機動戦艦ナデシコ』の佐藤竜雄監督とXEBECによる青春学園ストーリーの宇宙SF版だ。パイロットを目指す訓練生は、うのまことによる、ふっくらと肉感的なキャラデザインで描かれ、繊細なラインや絶妙な配色、そして宇宙描写が魅力である。

 ことに超新星災害の影響で「緑色」に変わってしまった宇宙空間の発色が、BDの色彩再現性の向上で独特の情感に高まっているのが、嬉しい点だ。ナデシコでも多用されていた佐藤竜雄監督独特の「モニターCG演出」が細部までよく見えるのも、作品への埋没感を深めてくれる。パイロット同士は宇宙機の挙動を目視せず、モニターを通じて図形パズルのように互いの気持ちと動きをつかむ。そんな描写の積みかさねで宇宙SF独特のコミュニケーションと臨場感が生まれるのである。

 こうした作中のディテールは、随所で普遍的な「心のつながり」のドラマにも密接に結びついている。もともとアニメは色合いや再密度など「画」のマジックを総動員してドラマに感情を引きこむものだから、画質の向上によって主人公たちの成長ドラマの感動も深まるというわけだ。

 たとえ物語は同じでも、BD化によって到達できる感動の奥深さが確実に変わる。そんなHDリマスターの魔法をブルーレイで確認してほしい。

【2010年1月11日脱稿】初出:「月刊HiVi(ハイヴィ)」(ステレオサウンド刊)