●見方をちょっと変えて溝をジャンプすれば、楽しさが増す……かもしれない?
また洋画の話題で申し訳ない。『リディック』でいろいろ考えた話をしてみたい。『トリプルX』の大ヒットでスターとなったヴィン・ディーゼルが製作も兼ねると聞いて、脳裏に過去の死屍累々の悪夢が一瞬よぎった。製作費180億円のSFアクション大作というのも、大いなる危険信号を放っている。
割と早い時期の試写で拝見したのだが、これがなんとも不思議な感触だった。マジメに考えれば怒り狂っても良さそうなくらいに、デタラメなことばかりの映画である。だいたい言葉が滑っている。銀河全域が武力と恐怖で支配された暗黒時代、狂信的なネクロモンガー(サンバルカンか?)が星々を征服し……とか言ってるけど、降り立った惑星って人が数十人しかいないし。全体に少人数で事を進めてるムードがあって、「銀河」という言葉のスケール感と内容が、なかなかマッチしていかない。
宣伝が「スター・ウォーズにも匹敵」みたいなムードで押しまくっているから、このミスマッチでフラストレーションを溜めてしまうと、不幸な結果が確実に待っている。しかし意外にも筆者はこの映画を楽しめてしまったのだ。
五つの惑星から指名手配される銀河最強のおたずね者リディックは、ことあるごとに肉弾アクションを見せつける。さすがにやることはきちんとやっている。しかし、この作品のお楽しみどころの本質は、実はそういうところにはない。なんと言っても驚きなのは、3秒後の展開がさっぱり読めない『キル・ビル』的ストーリー展開である。それがピークに達するのは、惑星クリマトリアのくだりだ。
地表は灼熱の太陽に照らされ、地下は刑務所となった難所。いろいろあってリディックと恋人一行と看守たちは、地表と地下に分かれて脱出用宇宙艇のところまで競争することになる。地表は夜間はマイナス200度、日の出になれば400度になる恐ろしい環境だ。で、結局は間に合わず、まさにその日の出が見えてきた。この強烈な直射日光を浴びたら危ない! ……という絶対の危機を脱するのにとる行動とは?
これっていまだに信じられないのだけど、「いっしょにいたやつの水を身体にふりかけ、ターザンみたいに女の子片手にロープでジャンプ! 日陰へ飛び込む」というのが解決法だった。「すげえぜ!」と感心して見たやつは超高熱で身体が爆発しちゃうんだけど、こっちの脳も爆発した。空気はつながってるんだから、温度は全体に高いわけで、日陰だから大丈夫ってことはないのでは?(笑)。
すべてがこの調子で進んでいく。一番驚いたのが皇帝との決着。いくら意外なオチと言っても限度があると怒ってる人多数のラストも不思議と「わっはっは」で済んでしまった。ここまで壊れていると爽快だよね。その後、しばらく考えて導き出された結論は、「これって番長映画だったんだ」ということ。「惑星=中学校」と置き換えてリサイズしてみると、ちょうどいい感じで何もかもがフィットする。あの頓狂なラストシーンも、きっと番長の襲名だったんだ。『銀河番長リディック』などと改題してTVシリーズになったら、ぜひに毎回観たいものである。
で、もうひとつ思いつきで出て来たのが「この映画ってBプラスだったんだ」って考え方。予算とか尺ではなく、テイスト、思想、枠組みがB級。それに大金をかけたので「Bプラス」というポジションに来た。ところが、これはA級であるかのように宣伝されてしまったところに大きな不幸がある。そうすると、「Aマイナス」として評価されるからだ。
だが、「Aマイナス」と「Bプラス」は隣接しているようでいて、間には深い溝がある。ラジオやテレビで言えば、別のチャンネルみたいなものだ。だったら受け手としては、Bでチューンして思いっきり楽しんだ方がお得ってことが、きっと起きたんだと思う。
そう言えば、「楽しいかどうか」じゃなくて「よくできてるかどうか」で評価する人が増えてる気もする。そんなNHKしか受信できないテレビみたいな受け止め方ばかりしていると、人生損しちゃうかなあ……と、自戒も込めて思わされた銀河番長経験であった。
【2004年9月3日脱稿】初出:「宇宙船」(朝日ソノラマ)