BDアニメ 厳選!俺流アニメ 第3回『坂道のアポロン』『巨神兵東京に現わる』

※2012年8月発売号の原稿です。当時公開の映画レビューつきです。

【惹句】ジャズを通じて響きあう男同士の心情。音楽を中心に据えた青春アニメが高音質で!

●BDのハイスペックが嬉しい 音楽中心のアニメづくり

 楽器の演奏は、空気の振動を媒介としたコミュニケーションでもある。それを改めて実感させてくれるテレビアニメが2012年の春番組『坂道のアポロン』だ。1966年の九州・佐世保の高校へ転校してきた優等生が不良と言われる型破りの同級生と出逢い、ジャズの演奏を通じて心を開いていく青春ものである。小玉ユキによる原作漫画は第57回小学館漫画賞受賞。女性層の多いノイタミナ枠で待望のアニメ化となった。

 まず第1話、地下室でのカルテット演奏シーンで「すごい!」と思わず身体を乗り出す。ドラムとトランペットにベースと息のあったプレイヤーたちの中に、主人公が初めてピアノで飛びこむというシチュエーションで、言葉にならない緊張感と同調できたときの喜びが、音楽と完全シンクロした作画とカット割りで濃密に映像表現されている。メイキングによれば演奏はCG表現を避け、スタッフの私物カメラ10数台で撮影した実写をもとに作画へ置き換えているというから凝っている。

 驚きのセッションを実現したスタッフは、渡辺信一郎監督と作曲家の菅野よう子。『カウボーイビバップ』をヒットさせた名コンビだから、実に納得の布陣である。実演も若手プレイヤーを使ってフレッシュさを重視し、ドラマにあわせてミスタッチなども再現しているという。Blu-rayの高音質はそんな内面の揺れを空気感ごと再現していて、かなりの臨場感が楽しめる。

 そして何よりも面白いのは青春ならではの揺れ動き、煩悶とする主人公たちの心情だ。恋愛と友情が交錯する中、男同士の絆が確立していくドラマは、実に骨太で見応えたっぷりである。

●アニメと特撮が兄弟だと 実感できるスペシャル新作

 今月の必見は7月10日から10月8日まで東京都現代美術館にて開催中の「館長 庵野秀明 特撮博物館」用の特撮短編映画『巨神兵東京に現わる』だ。宮崎駿監督『風の谷のナウシカ』に登場する巨神兵が現代の東京に出現したら……という設定で、徹底した破壊シーンが繰り広げられる。

 「CG禁止」というルールで伝統的なミニチュア特撮にこだわったビジュアルは実に新鮮。会場では続けてメイキング映像と撮影用実物も展示してあるから、満足度は高い。「企画:庵野秀明、監督:樋口真嗣」ということで、エヴァンゲリオンファンならアニメと特撮の枠を越えて共通するテイストを発見できるはずだ。

【2012年7月26日脱稿】初出:「月刊HiVi(ハイヴィ)」(ステレオサウンド刊)