BDアニメ New Frontier 第15回『TIGER & BUNNY』

※2011年8月発売号の原稿です。

【惹句】疲れた中年と美青年の迷コンビ。企業ロゴをつけて戦う斬新なヒーローアニメ!

 犯罪をあつかう娯楽作品に多い形式のひとつに「バディもの」がある。それぞれ個性的な主人公二人がコンビを組み、対立したり協力したりしながら活躍するものだ。この『TIGER&BUNNY』はそれを前提に、「ヒーローのバディもの」という異色作として2011年春にスタートしたTVアニメである。

 特殊能力者「NEXT」がヒーローとして活躍する未来都市シュテルンビルト。彼らはそれぞれ企業に所属し、事件解決の模様はTV中継されてランキングを争っている。そのひとりワイルドタイガー(虎徹)は子持ちで人気下降気味の中年ヒーロー。転属させられた会社の指示で新人ヒーローのバーナビーとコンビを組み、引き立て役を命じられることになってしまう。だが、バニーと呼ばれた新人の反発を招くなど、新コンビはまるで息が合わない。これで事件は解決できるのだろうか……。

 本作のさとうけいいち監督は『THE ビッグオー』のコンセプトワークを担当し、特撮もののデザインも多く手がけるクリエイターだ。アメコミ風の世界観で活躍するヒーローたちのキャラクター原案は漫画家の桂正和。『電影少女』など肉感的な美少女もので著名だが、ヒーロー漫画『ウイングマン』の作者でもあるので、実に適材適所と言える。ヒーローのボディにはF1レース的なスポンサーロゴが3DCG技術で貼りつけられ、実に目だっている。参加企業は実際に新聞で公募したもので、新たなアニメの資金調達手法として放送前から大きな注目を集めていた。

 このように話題の要素が盛りだくさんの作品なのだが、放送が始まってみると、誰も予想しなかった意外な方向から大反響を呼ぶ。BL(ボーイズラブ)など男性同士の関係を楽しむいわゆる「腐女子」の層に受けて、この春の大ヒット作となったのである。

 それは、同性愛的な意図の乏しいところに「独特の意味」を見出して喜ぶ文化だ。冴えない中年男と美形の青年が、ぶつかり合いながら共通の目的に向かって共闘するさまは、女性のハートをわしづかみにした。注目したいのは『虎と兎』という凸凹コンビの練りこまれた会話劇が非常に面白く、男性が見ても楽しいことだ。虎徹の声がジョニー・デップを吹き替える平田広明であることも手伝い、海外ドラマや洋画と同じ感覚で見られる作品なのである。

 色彩豊かでゴージャスな都市風景で展開される、異色ヒーローのアクションと軽妙な会話。洋酒を傾けながら楽しみたい、そんなアニメである。

【2011年7月29日脱稿】初出:「月刊HiVi(ハイヴィ)」(ステレオサウンド刊)